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第二話 姉さん、浮いてる人にかける言葉が思いつきません

「さっきから何度もこっち向けって言ってるだろぉぉ!!」

 へ?


 広がった人型で周囲が暗くなったことに驚く間もなく。

 怖い緊迫感をぶち壊しにする声。


「邪悪な異教徒のなれの果てごときが…」


 だいたいお外で脱いだ僕の言うセリフではないが、引っ込んでたほうがいいと思う。

 だが、ありがたくも、動けない自分を正気に返したのは、その言葉だった。


 聞き覚えも、あるような内容な声。

 振り向くと、その正体が見える。


 ああ。

 朝の人だ。


 コスプレっぽい修道服そのままで、右手を高々と上げて怒鳴り散らしている。

「今更出てくるなど、おこがましい!!!」

「逃げて逃げて…」

 冗談とか悪乗りで来ちゃいけないと思う。

「すべて!」

 言いかけながら、頭の布に手をかける。

「全ては一人の主の前に!」

 そして取る。


 思わず声が出そうになる。

 なかなかの美人だ。

 

 少し焼けた肌で、小麦の穂のような、と言う台詞を柄にもなく言ってしまいそうな金色の髪。

「そんでほら、なんだっけ!」

 さらに言いながら服を脱ぎだす。


 …なにしてんだろ……。


 さらに畳んでる。


 そんな時間の余裕見せなくてもいいと思うんだ。


「とにかく、私を崇拝してひれ伏して拝め!!」

 宗教関係のひととしては、割と言ってはいけないのではそのセリフ!!


「そしてそこの!」

 こっちの人のことだと思うが、こちらを指さして。


「あれ?」

 姿がその途端、消えた。

 今更言うのもなんだが、現実感がない。


「消えてなくなるべき、そのおこがましさ!」

 次の言葉は空の上から聞こえた。


 見る間もなく、何かが降り注ぐ。


 僕は考える暇も息する瞬間もなく、思う。

 あのひとも、人じゃなかったりするのかな、と。

「…消滅してから!!」


 何かが落ちてくる。

 光のような、物体のような。


 柱。


 そう呼んだほうがいい、大きな塊。

「光じゃなく、雷…なのか…」

 ぽつりと思ったままを言ってしまうのが精いっぱいだった。

「嘆くがいいっ!!!!!」


 その中で、背後で殺気をずっと持ったまま立っている女性は冷静だ。


「なんで当たらないか、わかるか」


「うっ、うるさい!!」

 明らかに焦りを帯びた上空の声。

 どこかの番組の魔法のバトンのようなものを振っているが、力任せで子供のように振っている感がぬぐえない。

 それ自体がバトンや杖というより棍棒みたいなのも、落ち着いてみると可愛げを感じた。


 そして周りの柱も、避けるようにこちらには当たっていない。


 もしかして落ち着いていいのだろうか?


 しかし、この柱に興味本位で触ったとしたら、たぶん死ぬんだろうなとも。

 やはり多少は怖い。


「敵のお情けで敵役として飼いならされたベエル=ゼブルごときだからな」

「死ぬのを覚悟した負け惜しみは言い終わったのかあぁぁあぁ!!!!」

 泣きそうな声で言われても。

「それが、すでに首でも取ったようなことを言う」

「滅びるべし邪悪!!!!!」

 後ろにいる美人は、これを見てなお、落ち着きがむしろ増したように話すのか。

 なんなんだ。

「しかも相手が何なのか、理解もできないとは…」

「終わり!!!!!」

「…足りない証拠だな」


 完全に置いてけぼりだ。

 だが、見れば、柱のようなものは埋まるように回りを埋めている。

 外が見えないほど、それだけで埋まってしまった。


 あ、れ?

 いい加減ヤバいのでは。


 すごく大変なことになっているのは理解するのだが。


 瞬間。

 とても何か嫌な空気を感じ、その言葉がとても大きく聞こえた。


「チェルノボグに連れていかれるぞ」

 

 ぽつりと、そういったのだと思う。

 意味は、わからなかった。

 それなのに全身が、まるで総毛立つ感覚がある。


「殺されてしまうぞ?」


 笑ったような、そんなイントネーションを感じた。

「何であってもかわるも・・・の・・・」

 その時、声が遠くなるのを聞いた。


 見たその光景は変わらないのに。

 何かが遠くなる。



 そして日常らしいものが返ってくる。

 普通の空。普通の太陽。


 ただ、その前に数秒、見えたものは、気のせいだったんだろうか?

 誰かが消えるその前に、ここは夜になった。

 数分…もなかったと思う。


 暗闇だけがあり、それが周りに充満し、何かを消した。


 そう、感じた。


 気のせいだといいが、なぜかそれを受け入れていた。

 わからないが。


「渡すのならば、あなたはそのままでいい」

「あ、えっ…」


 放心していたのを、その声で知った。


「早く出しなさい」

 いそいそと、シャツも脱ぎ、上は裸だ。

 真昼間の中庭で。

 不思議とだれもいないのは理解しているので躊躇もない。

 なので早めにそれを探すために行動するが…。


「ないんですが」

「下は」

「堪忍してください…ほんと何もないです」

「下は」

「許されないんですかね」

 無言の肯定。


 悲しい。


 そしていそいそと…屈辱だ。

 だが。


「何処にもくっついてないんです、ほんと勘弁してください」

「逃げてはいないはずなのに、私が闇を使って注意しきれない一瞬に隠れたというのですか」

「ボクの知らないところではあるみたいです」

「あれでそんな芸当が可能とはおもっていません、まだ居ます」

「そうですか…?」


「ですので」


 ていうか。

 その。

 髪の色も目の色も、あなた会話し始めた時と、ちがくないですか?


 黒。

 外人に見えたのは変わらないが、つやのある東洋風の黒髪にも見えるそれが印象付いた。


「いまのうちに決着しましょう」

 え

「またなにか…」


 言う反応すら待たない。


 そのまま、また夜がくる。

 ほんの数秒の深夜の暗闇。


 だが

 今回は少しだけ違って。


「・・・え・・・」


 周囲の花がない。

 草もすべて茶色っぽい。

 枯れて、いる?

 見ると木もボロボロに・・・なって・・

 ちらりと見えた、中庭に伸びる校舎の連絡通路も壊れていたような…。


「呑み込んだが…この場合の手段は聞いてないな」


「もしかして恐ろしいことをしてますか?」


 とりあえず、思いつく精いっぱいがその一言だった。


「異常があるところは私自身で埋めておくので残りはしない」

「そうなんですか・・・」

「だから服はもう着ていい」


 !!


 裸でした。


 なんか可愛げはともかく小ぎれいな女性の前で。

 服は・・・あ、あった。



 そのまま着終わるとき、もう彼女はいなく。

 周囲は、本当になにもなく。

 心配していた友人はというと。

「でーなんだっけ」

「飯の話はもういいや」

「昨日それでこのゲームで順位がさぁ」

 普通に笑い話をし出した。


-なんかの夢だったんだろう。


 特に引きずらないよう、心に留めて忘れることにしたのだ。

 その日は。

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