パントマイム
休日。
家族でアウトレットパークへ買い物に出かける。
一時間もしないうちに、旦那は歩くのに疲れたと駐車場の車へ引きこもってしまった。
仕方なく、私は娘を連れて二人でショッピングを満喫することにした。
さすがに休日ということもあって、結構な人混みだ。
娘には興味があるものを見つけても勝手に走って行っちゃ駄目だぞと念を押す。
「うんっ!」
こういう時の娘は大体が調子に乗っているときだ。
私は買い物を楽しみつつも、娘から目を離さないように気を遣う。
「あっ」
アウトレットパークの中央にある噴水の近くに差し掛かったとき、娘が小さく声を上げて走り出す。
娘の悪い癖が出たと思いつつも、見失わないように荷物を抱えて追いかける。
すぐに娘は立ち止まり、私もすぐに追いついた。短い距離だけど、荷物を抱えての全力疾走は堪える。
娘が目指したのは噴水前。そして目の前には大道芸人。
娘は大道芸人の男の仕草に目をぱちくりさせていた。
――パントマイムだ。
大道芸人は、何もない空間にさも壁があるように手を動かしている。
その仕草は本当に壁があるかのようで、娘は見えない壁の存在に目を凝らしていた。
「おかーちゃん、あの人出られなくなってるの?」
娘は見えない壁に遮られた動きをする彼を見て、そんな風に聞いてくる。
――どう答えたものか。
私は考える。そして、一つのアイデアを実行することにした。
「助けてあげる?」
私は娘に訊いた。
「うん。お願い」
娘は彼の事を思っているのか、半泣きになりながら私へお願いする。
メイクはしているが、素顔はかなり整った顔だろう。そう思わせる雰囲気がある。
――この面食いめ。
娘の趣味が私と似ていることに親子の縁を強く感じながら、私は彼のパフォーマンスをしている目の前に進み出た。
ゴンッ。
私は見えない壁に頭をぶつけてよろける。
壁の向こうの彼も驚いた表情をする。だが、それも一瞬のこと。
すぐに私の意図を察したようだ。
近くまで来てはっきり判ったのは、彼が結構なイケメンだということだ。
私は彼に向き合う形で手を前に出して上下左右へ動かす。
その動きは周囲から見れば、二人の間に本当に壁があるように見えたはずだ。
――通信講座でパントマイム3級を取得していた事がこんなところで役に立つなんて。
私は彼と相対して壁を探る。そして、彼の右手と私の左手が同時にドアのノブを探り当てた。
だが、ここで問題が発生する。
お互いにドアを開けようと引っ張ったのだ。お互いがドアを引いて開けようとして開かない。
周囲のギャラリーはここでどっと沸いた。
そして手を離し、再び、私と彼はドアノブに手を掛ける。
今度は私が引いて、彼は押す。
無事に開かれるドア。
そしてギャラリーは万雷の拍手。
私は思わず彼と抱き合った。そして、彼の頬に口づけをする。
「おかーちゃん……」
娘の声にハッと我に返る。
――やり過ぎた。
私は顔が真っ赤になっているのを感じながら、ギャラリーの拍手を背に娘の手を引いてその場を逃げるように離れた。
娘に請われてしたことながら、私はお小遣いを使って、口止め料代わりに娘の欲しがったぬいぐるみを買い与える羽目に陥ったのだった。
あの日以来、ときどき、娘の前には見えない壁が現れる。
良くある話(短編的に)




