第八十五片 久々の帰還
「…………」
んん……。
朝? なんか、布団の感じが違うような……。
天井も、違う……。
「冬?」
「起きたのかい?」
あれ、じいちゃんとばあちゃんの声がする。
……なんで、だ?
あ。
ベッドの横にいる。幻聴じゃない。
「冬が……冬が目を覚ました!」
「わ、私、先生を呼んできます!」
「よくやった! よく帰ってきたぞ冬!」
ばあちゃんは病室を飛び出し、じいちゃんは俺を抱き締めた。
何が何だか、よくわからなかった。
「異常はないようですね。これなら、明日中に退院できますよ」
じいちゃんに話を聞いたところ、俺は一ヶ月もの間、気を失っていたのだという。
二日間連続で学校を無断欠席した野薪先生が祖父母に連絡をとり、自宅で気絶している俺が発見されたのだという。
「いやぁほんと。一時はどうなるかと思ったぞ」
「ごめんよ、じいちゃん、ばあちゃん」
「あんたは謝らんでいいよ。それより、私らより先にあっちに行かんでよかったよ」
そうさな、と相槌を打つじいちゃん。
そうだ。
二人はすでに、自分の息子を失っている。
「俺、生きるよ」
「ん? あったり前じゃ」
「ありがとうね、冬」
あっはっは、と豪快に笑うじいちゃんに、つられて俺も笑った。
「検査はどれも異常なしです。よかったですね、清水さん」
「お世話をかけました」
「いえいえ、それでは」
「はい。失礼します」
翌日、俺は無事に退院を果たし、久しぶりに我が家に帰ることとなった。