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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
ラスフロス編
97/123

第八十四片 選択

 ラスフロス大陸の首都で行われた五国会談。

 俺、春、中籠やユキたちは外で待たされ、終了後に話を聞いた。


 まず最初にネイストさんが俺を誘拐した理由を説明し、謝罪した。

 そこから各国の近況報告が行われた。

 アストリアはラスフロス原生の魔物からの襲撃、魔物の異常発生を抑制する機械の発明の二つ。

 リツォンコーネはアストリアからの機械の提供を受けたこと、使節団をアストリアに送ったことの二つ。

 モルフェディアは分布はおろか種族すら分からない竜からの襲撃のこと、現在新兵器の開発に着手していることの二つ。

 ラスフロス、ムーは魔物の処理に手を焼いていること。


 アストリアは今回、生産できている抑制装置をすべてラスフロスに持ってきていた。

 ネイストさん、野薪先生はレジルさんからこれを受け取り、説明書を受け取っていた。

 

 会談が終わった頃には日も暮れていたが、ラスフロスを除く四国の要人たちは自分の国に帰るため、また軍艦へと乗り込んでいった。

 もちろん、俺も一緒に乗り込んだ。

 ユキと一緒に二段ベッドが備えられた個室を割り当てられる。


「これでようやく、おうちに帰れますね」

「ああ、そうだな」


 これでようやく、アストリアに帰れる。

 窓の外の月を見ながら、揺れる船と動いていく景色でそれを実感する。


「……あの、冬さん。準備は出来ているので、横になってもらえると助かります」

「へ?」


 ユキのほうに目を向けてみると、その手には、懐かしい木づちが握られていた。

 そして思い出す。俺が主として生きているのはこちらではなく、あちらなのだと。


「ああ、悪い悪い。ここにあるとは思ってなかった」

「そう、ですか」


 笑ってごまかす俺を見るユキの目は、どこか不安げだった。


「……ユキ?」

「冬さん、あちらに戻りたく、ないですか?」


 ハッとした。

 自分の心の中を覗かれた気がした。


「聞き方が悪かったですね。その、こちらに、ずっといたいですか?」


 俺の顔を見て、ユキは慌てて言葉を改めた。

 どちらの問いも、少し答えにくかった。


「初めて冬さんを見た時」


 俺が答えあぐねていると、ユキはひとりでに語りだした。


「初めて冬さんを見た時、何だか元気がなさそうだな、って思ったんです。

 元気がないというか、希望がないというか。

 あ、あの、すみません!ひどいこと言って。

 ……でも冬さん、願世こちらに来てから、そういう顔、そんなにしなくなったんです。

 具体的には、ハハルさんとの練習任務あたりから、ほとんどなくなりました。

 最初乗り気じゃなかった冬さんから、自分の体を顧みずに五百倍弾を撃つって言われた時には本当に驚きました。

 それから、モルフェディアに行って、レストを守って、地方を回って、春さんに会って、今回久しぶりに私と再会して。

 いつも冬さんは、何か、生きてるって顔をしてました。

 だから、こちらの方が生きやすいのかな、って」


 すみません、私の勝手な考えを長々と、と。ユキは頭を下げた。

 でも、人に言われて、言葉にされて実感する。

 何だかんだ言いながら、こちらでの生活は、現世での生活より良いと感じることも多かった。

 自分でも、充実感は少なからず感じていた。


「まあ、生きやすいのは事実だよ。でもさ」


 でも、生きやすいから、生きる世界を変えるというのは、何だか違うと思った。

 それがその人に最適の世界で、現世と比べ物にならないほどに生きやすいなら話は別だが。

 俺の場合は違う。

 こちらが生きやすいのは、俺が現世での諦観を抱かないような立場にいて、周りの人が親切だからだ。

 だから俺はこちらで生きることにしても、立場が変わればまた生きづらくなる。

 それに、現世あっちには俺を心配してくれる人がまだいる。

 俺が成長しなきゃ、どこにいても世界は変わらない。


「俺はちゃんと、二つの世界で成長して、ちゃんと生きやすいようになるから。だから大丈夫」

「そう、ですか」


 ユキの顔が、少しだけ明るくなった。


「二段ベッド、下の方がやりやすいよな」

「そうですね、お願いします」


 そうして俺は、また木づちに打たれた。

 現世に帰るために。

 俺が今からいるべき世界に、行くために。

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