第七十九片 三人目
俺の死ぬかもしれないという予想は、幸いにも杞憂に終わった。
王様の命を受けた兵士数人と共に別室に入れられた時はどうなることかと危惧したが、そこではアストリアや俺、そしてレジルさんのことを聞かれるだけだった。
分からないことに関しては正直に答えると二、三度聞き直されたが、最終的には声を荒げることもなく流してくれた。
時おり「こんなところに連れてこられて不安じゃないか?」「何かあったら力になるからな」と、励まされることさえあった。
取り調べが終わると兵士の一人が席を立った。
十数分後、少し口角を上げながら帰ってきた。
「冬くん、君はこれからうちの国で保護することになった」
兵士さんの口から出てきたのは、思いもかけない言葉だった。
俺を保護? うちの国王を拐おうとしてた国が?
「君は魔力こそ豊富だが、戦闘能力は一般人並みだそうだと言ったら、護衛まで付けてくれると国王様は言ってくれた」
よかったな、と肩を叩かれるが、本当にこれが良いことなのか、俺には判断がつかなかった。
護衛と言えば聞こえはいいが、それがお目付け役である可能性もある。
そしてこちらに飛ばされる前の話もある。手放しに相手であるラスフロスのことを信じることは、できなかった。
とはいえ、今はどちらにしろ相手の言うことを聞く他ない。仕方なしに、俺は護衛との合流場所に足を運んでいた。
設定された場所は、城の中の庭にある噴水の前。石造りの城の壁に囲まれた、草木の緑と水の青に彩られた庭。
兵士に案内してもらってその場に着くと、既に相手は到着しており、じっと噴水を眺めていた。
後ろ姿は男とも女とも取れる細身にショートカット。
黒く引き締まったズボンと黒いジャケットに霞んだ赤髪が強調される。
護衛というのは、この人のことなんだろうか?
おそるおそる、声をかけてみる。
「あ、あの」
「へいへい?」
この声は男の声だ。低くて、少しかすれた声。
男性は振り返り、その眩しいほどの笑顔を見せてきた。
「あんたが清水くん、かな?」
「はい、そうです」
「そうかそうか! 今回は災難だったな!」
彼はけらけらと笑いながら、しかし一度もその目を開けない。
「まぁ、よろしく頼む。この辺りかな?」
彼が差し出した手は、俺より少し右に向かって伸びていた。
「俺はここですよ」
「ん? あぁ、ごめんごめん。まちがえちった」
またけらけらと笑い、俺の方に手を差し出し直す。
その手をとると、彼は固く握ってきた。
「俺は亮。中籠亮だ。よろしく」
「清水冬です。よろしく」
彼の目は弧を描きはするが、やはり開くことはなかった。