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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
モルフェディア編
89/123

邂逅片・肆

 須藤は町外れの開けた野原で立ち止まった。俺たちも足を止める。

 

「夜桜」

「はいはい」


 唐突に仮面を被る須藤。

 片手には黒い剣を持っている。

 剣? 刀? フォルム的には刀。しかし刃と持ち手の境になる出っ張りくらいは見てとれるが、鍔にあたる部分が見当たらない。


「影」


 単語を発する春。足元の影からもう一本剣が出てきた。春は冬にそれを渡す。

 避ける冬。転がる剣。


「どうして避ける」

「切れたら危ないから」

「……そうか」


 何かを考える春。怪訝な顔になる冬。


『あぁ、気にしないで、こういうやつなの』


 夜桜が冬の脳内に語りかける。


「どうやって!?」


『多分、面族同士の意志疎通よ。できる気がしてやってみたの』

『これはすごいですね、聞こえますか? 須藤さん』


 白雪が語りかけると、須藤はコクンと頷いた。

 どうやら面族には、頭のなかで考えたことをやり取りする技術があるらしい。


「それはどうでもいい。お前に剣を教える」

「なんでそんな急に……」

「戦場で役立たずだとこちらが困ることがあるかもしれないだろう」


 言ってくれるな、こいつ。


「いいよ、それじゃあ、教えてくれ」

「ああ」


 口ぶりはぶっきらぼうだが、須藤はかなり親切に基本の指導してくれた。

 持ち方、振り方、イメージ。どれもが分かりやすかった。

 しかし、打ち合いとなると話が違った。


「ちょっと待った! ストップストップ!」


 刀を弾かれ、そのまま刃を振り下ろしてきた須藤を制止させる。


「本当の戦場なら命はないぞ」

「ここは練習だろ」

「刀は落とすな」


 ……言い方考えろよ。


「不意を突かれて落とすなんてありうることだろ」

「こんなこともできないのか」

「……は?」


 今のは流石にカチンと来たぞコラ。

 ムカつきが顔に出ていたのか、須藤は何かに気付いたようにハッとし、少し俯いた後、「すまない。ここまでだ」と言って町の方へ歩いていった。


「おい、待てよ」


 俺が追いかけようとすると、面から戻ったサクラさんが止めに入ってきた。


「ごめんな、さっきといい今といい。あの子は、人との付き合い方ってのが苦手なんだよ。さっきのは、悪いとは思ってるんだ」

「……」


 人との付き合い方が、苦手……。


「だから、大目に見てやってくれないかい?」

「……まあ、いいですよ。俺も、そう得意じゃないし」

「そうかいそうかい、それは助かる。……ねえ、あんた。ついでなんだけど」


 ずいっと顔を寄せてきたサクラさんは、頼みごとがある、と言ってきた。


────*────*────


 ムテンの街中。人通りの多い一番大きな商店街にあいつはいた。


「おーい、す……、春」

「……なんだ」


 返事をした。須藤、もとい春は少し不機嫌そうだ。

 ……呼び方が気に入らなかったか。


「須藤の方がいいか?」

「呼び方はどっちでもいい。何で変えたんだ」

「は? ええっと……お前と仲良くなりたいから?」

「……仲良くなって何がある」

「わかんねえよ」

「……?」


 まあそりゃ首傾げるわな。「仲良くなりたい」って言ってる奴が「仲良くなって何があるのか分かんない」って支離滅裂だもんな。


「あのーー、あれだよ。さっき言ってきたことは許すから、代わりに俺と仲良くなれ」

「……何のために」

「何でもいいだろ。んじゃあれだよ。先頭の時、お互いがいがみ合っているよりチームワークがある方が足手まといになりにくい。正論だろ」

「……確かに」

「んじゃそういうことだ」

「俺はお前のことを何て呼べばいい?」

「ふぁ!?」

「お前は俺を下の名前で呼んでいる。俺もそうした方がいいのか?」

「そ、そこはー、個人の自由ってことでいいんじゃないか」

「そうか、それじゃあ冬。改めてさっきはすまなかった。これからは、どんなものか俺はよく知らないが、仲良く? してくれ」

「……ああ、俺も最近はあんまり分かんねえけど、よろしくな」


 なんとなく、成り行きで握手をする、俺と春だった。



「なんか、うまくいったみたいね、あれは」

「そうですねえ」

「二人とも、なんか似てる気がするし、仲良くなるといいわねえ」

「そうですねえ」

「ふふ。あんた、いい子ね」

「そうですか?」

「ええ、すごい幸せそうに彼を眺めてるもの」

「そ、そうですかね」

「ははは、照れるなんて、かわいいわね」

「いえいえ、それほどでも……」

「それじゃ、私たちも友達になりますか」

「え、いいんですか?」

「いいに決まってるわよ。今のところ私たちしか契約を交わした面族はいないし、私はあなたと仲良くしたいし。あなたはいい?」

「も、もちろんです! よろしくお願いします」


 俺たちの知らぬところで、相方同士もこんなふうに、仲を深めたのだとか。

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