邂逅片・肆
須藤は町外れの開けた野原で立ち止まった。俺たちも足を止める。
「夜桜」
「はいはい」
唐突に仮面を被る須藤。
片手には黒い剣を持っている。
剣? 刀? フォルム的には刀。しかし刃と持ち手の境になる出っ張りくらいは見てとれるが、鍔にあたる部分が見当たらない。
「影」
単語を発する春。足元の影からもう一本剣が出てきた。春は冬にそれを渡す。
避ける冬。転がる剣。
「どうして避ける」
「切れたら危ないから」
「……そうか」
何かを考える春。怪訝な顔になる冬。
『あぁ、気にしないで、こういうやつなの』
夜桜が冬の脳内に語りかける。
「どうやって!?」
『多分、面族同士の意志疎通よ。できる気がしてやってみたの』
『これはすごいですね、聞こえますか? 須藤さん』
白雪が語りかけると、須藤はコクンと頷いた。
どうやら面族には、頭のなかで考えたことをやり取りする技術があるらしい。
「それはどうでもいい。お前に剣を教える」
「なんでそんな急に……」
「戦場で役立たずだとこちらが困ることがあるかもしれないだろう」
言ってくれるな、こいつ。
「いいよ、それじゃあ、教えてくれ」
「ああ」
口ぶりはぶっきらぼうだが、須藤はかなり親切に基本の指導してくれた。
持ち方、振り方、イメージ。どれもが分かりやすかった。
しかし、打ち合いとなると話が違った。
「ちょっと待った! ストップストップ!」
刀を弾かれ、そのまま刃を振り下ろしてきた須藤を制止させる。
「本当の戦場なら命はないぞ」
「ここは練習だろ」
「刀は落とすな」
……言い方考えろよ。
「不意を突かれて落とすなんてありうることだろ」
「こんなこともできないのか」
「……は?」
今のは流石にカチンと来たぞコラ。
ムカつきが顔に出ていたのか、須藤は何かに気付いたようにハッとし、少し俯いた後、「すまない。ここまでだ」と言って町の方へ歩いていった。
「おい、待てよ」
俺が追いかけようとすると、面から戻ったサクラさんが止めに入ってきた。
「ごめんな、さっきといい今といい。あの子は、人との付き合い方ってのが苦手なんだよ。さっきのは、悪いとは思ってるんだ」
「……」
人との付き合い方が、苦手……。
「だから、大目に見てやってくれないかい?」
「……まあ、いいですよ。俺も、そう得意じゃないし」
「そうかいそうかい、それは助かる。……ねえ、あんた。ついでなんだけど」
ずいっと顔を寄せてきたサクラさんは、頼みごとがある、と言ってきた。
────*────*────
ムテンの街中。人通りの多い一番大きな商店街にあいつはいた。
「おーい、す……、春」
「……なんだ」
返事をした。須藤、もとい春は少し不機嫌そうだ。
……呼び方が気に入らなかったか。
「須藤の方がいいか?」
「呼び方はどっちでもいい。何で変えたんだ」
「は? ええっと……お前と仲良くなりたいから?」
「……仲良くなって何がある」
「わかんねえよ」
「……?」
まあそりゃ首傾げるわな。「仲良くなりたい」って言ってる奴が「仲良くなって何があるのか分かんない」って支離滅裂だもんな。
「あのーー、あれだよ。さっき言ってきたことは許すから、代わりに俺と仲良くなれ」
「……何のために」
「何でもいいだろ。んじゃあれだよ。先頭の時、お互いがいがみ合っているよりチームワークがある方が足手まといになりにくい。正論だろ」
「……確かに」
「んじゃそういうことだ」
「俺はお前のことを何て呼べばいい?」
「ふぁ!?」
「お前は俺を下の名前で呼んでいる。俺もそうした方がいいのか?」
「そ、そこはー、個人の自由ってことでいいんじゃないか」
「そうか、それじゃあ冬。改めてさっきはすまなかった。これからは、どんなものか俺はよく知らないが、仲良く? してくれ」
「……ああ、俺も最近はあんまり分かんねえけど、よろしくな」
なんとなく、成り行きで握手をする、俺と春だった。
「なんか、うまくいったみたいね、あれは」
「そうですねえ」
「二人とも、なんか似てる気がするし、仲良くなるといいわねえ」
「そうですねえ」
「ふふ。あんた、いい子ね」
「そうですか?」
「ええ、すごい幸せそうに彼を眺めてるもの」
「そ、そうですかね」
「ははは、照れるなんて、かわいいわね」
「いえいえ、それほどでも……」
「それじゃ、私たちも友達になりますか」
「え、いいんですか?」
「いいに決まってるわよ。今のところ私たちしか契約を交わした面族はいないし、私はあなたと仲良くしたいし。あなたはいい?」
「も、もちろんです! よろしくお願いします」
俺たちの知らぬところで、相方同士もこんなふうに、仲を深めたのだとか。