続・邂逅片
「迷惑をかけた。手助け感謝する」
感情を感じさせない、平坦な声だった。暗いわけでもないが、明るくはない。体にまとう服もそうだが、彼は黒という色がよく似合う。初対面ながらそう思った。
「無事かー! おーい!」
上から声がする。どこかで聞いたような声だ。
「おいバカ! 大丈夫か!」
「おやおやまぁまぁ」
「…………」
上を見上げると、そこにはすごい光景が広がっていた。
三メートルは優に越えるであろう鷹が三羽、腕のない龍が一匹、そしてグリフォンが一匹。
それぞれの背に人が乗っているのが確認できる。
巨大な魔物たちが着陸したところで、乗っていた人たちが降りてくる。そのなかには一人、見覚えのある顔が見えた。
「えっと、確か……」
「あぁ、冬くんだったね。俺は椛。久しぶり」
「……久しぶりです、椛さん」
笑顔で答えるナイスミドル。大人の気遣いとはこういうことか。
「お前はアホか! どうしてあそこで落ちたんだ!」
「仕方ないだろ、そうするしかないと思ったからだ」
「お前に死なれたら困るのはこっちなんだよ!」
「……死んでないが?」
「てめぇ……」
「ザック、そのへんにしとけ」
「そう、うるさい」
「んだと!?」
「メナも、わざわざ怒らせるな」
「……はい」
椛さん以外の三人は、黒髪の彼と話している。黒髪の青年が一人、その青年と同い年あたりと見受けられる女性が一人、二人の上官らしき人が一人。
全員体型は細めだが体つきはしっかりしていて、同じ青色の軍服を着ている。肩や胸に飾りはなく、長袖のスポーツウェアみたいでとても動きやすそうだ。
異国の軍隊の人か? だとしたら、なぜアストリアに?
「……あぁ、すみません。突然お邪魔してしまって」
灰色の髪をひとつ括りにしている上官さんが、こちらに向き直って胸に手を当てた。
「私たちは、そちらの国王レジル様、そして我らが皇女アイリッシュ様の命にて参りました、アスナロウ小隊でございます」
「俺はこの人たちの案内役として来たんだよ」と椛が補足をいれてきた。
リツォンコーネ大陸。"現世"で言うところのヨーロッパ&アフリカにあたる大陸で、北部は魔術の都として有名だと聞いたことがある。
そんな国から使者が来るとは、しかもレジルさんの命令で、ときた。……何かが起こるのかもしれない。
「私はアスナロウ小隊隊長のアスナロウ・シプラス。こちらはうちの隊員のザック・バラン、メナ・スティアです」
「ザックだ。よろしく」
短い黒髪、金眼の青年、彼が、ザック・バラン。
今までの口調を見るに、かなり短気な人みたいだ。
「……メナです」
ミディアムというのか、肩につくかつかないかくらいの黒髪と碧眼の女性、彼女が、メナ・スティア。
引っ込み思案なのか、人嫌いなのか、よくわからない人だ。
「そして、こちらが"現世"からやって来た須藤春君と、その相棒の夜桜だ」
「サクラ」
春と呼ばれた彼が一言言うと、目を覆っていた仮面は光と共に消滅し、代わりに黒い着物に長い黒髪の成人女性らしき人が現れた。
……俺は、これと同じ現象を知っている。
「もしかして、その人は」
「いかにも。私は君のその子と同じ、『面族』だ」
流れる川が描かれた着物を着こなす彼女は、俺の心中を読んだかのように答えてきた。俺の顔を指差して、もとい、顔を覆っている白雪を指差して。
「まぁ自己紹介が終わったところで、立ち話もなんだし屯所まで移動しないかい、諸君」
椛さんは隠さず欠伸をする魔物たちを見渡し、俺たちにも目を配った。
「確かに、いろいろと連絡すべきこともあるしな」
アスナロウさんが同意を示す。
「長い話をするなら、ちゃんと腰を落ち着けてした方がいいわよね」
夜桜も緩く腕を組ながら頷く。
「ならそうするか」「……」「別にそれで構わない」
そんなわけで、俺たちと派遣隊は、ムテンで再度集合することにし、別行動となった。