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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
モルフェディア編
84/123

第七十六片 ある日の雑談として

 四時間目が終わり、昼休みになった。


「清水、一緒に食わないか?」


 食堂に向かおうとしている時屋と、その友達である新名にいなが声をかけてくる。


「おう、わかった」


 断る理由もないし、時には気分転換に食堂での食事もいいだろう。

 弁当と水筒を携えて、扉で待つ時屋たちに合流した。そうして三人で教室を出ていく。

 四階の教室から見える景色はいつ見ても変わらない。時折救急車がサイレンを鳴らして近くを走っていくが、そぐ傍に大きな病院があるので日常の一部と化している。


「清水」


 と、階段を下りようと足を出したときに、後ろから声がかかった。

 数歩下がって廊下を確認してみると、一つ向こうの階段を上がってきた様子の野薪先生がいた。サンドイッチを片手に、手招きをしてくる。

 ……。仕方ない。


「二人とも、ごめん。やっぱ今日は二人で食べてくれ」

「そうか、じゃあまた今度な」

「おう」


 時屋は後腐れなく送り出してくれた。もしかしたら俺がどうして言い出したのか分かっているのかもしれない。

 まあそれが真実かはどうだっていい。

 とにかく俺は踵を返し、野薪先生のもとに歩いていった。



 俺たちは最上階である四階の倉庫から屋上へと上がってきていた。本来は特別な時以外禁止されているのだが、野薪先生はよくここでお昼を食べる。そして今日のように、時々一緒に食おうと誘われるのだ。


「せっかくの学生生活を、一人で昼飯を食べるのが寂しい大人の気まぐれで無為にしないで欲しいんですが」

「そうきつく言ってくれるなよ。悪かったって」


 悪びれる素振りも見せず、片手を上げて謝罪するとすぐにサンドイッチのパッケージを開けだした。

 まったく、この人は本当に先生か? まあ先生なんだが。

 俺も自分の弁当の蓋を開ける。


「おっ、お前の弁当うまそうだな」

「ほとんど冷凍ものですけどね」


 二段弁当の上段は冷凍おかずのオンパレード、下段は白ごはんというありきたりで面白味もない弁当を見て、野薪先生は一応リアクションしてくれる。


「いただきます」


 手を合わせて、一口目を頬張る。

 まあ、いつもと同じ味だ。


 それから数分の間、会話はなかった。

 野薪先生はどこか遠くを見ていた。

 俺も真似をして遠くを見てみる。

 眼下には広いグラウンドと、それを囲むようにたくさんの家屋が並んでいて、そのずっと向こうには小高い山が並んでいる。空にはわずかに雲が浮いていて、今日はのんびりと陽の光を浴びて漂っている。


「なあ、清水」


 と、野薪先生が何を思ったか呼んできた。


「ふぁい?」


 ちょうど口に物が入っていたため、手で口を隠して応答する。


「平行世界って、あると思うか?」


 ……。

 よく噛んで、飲み込む。


「はい?」

「だから、平行世界。パラレルワールド」


 何を突然言い出すんだ先生は。

 どこからそういう発想に至ったのかとか色々聞きたいが、まずは答えるか。


「ないと言える証拠がない以上、俺はパラレルワールドはあるかもしれない、と思ってます」

「そうか。」


 俺の返答に、先生は何回か頷いた。


「はい。でもなんで?」

「ん?」


 野薪先生はちょっと上を向いて、目を瞑り、開けた。


「まあ、なんとなくだ」


 ……なんとなく、か。

 便利な言葉だなあ。


「清水は考えたことないのか? 人はなぜ生きているのか、とか。地球や宇宙はどうやって生まれたのか、とか」

「先生、先生はもう歳もいってますし真面目に言ってるから違うと思いますけど、それは厨二病というやつですよ?」

「いやいや、これって案外難しいんだぞ?」

「答えが出せない問題じゃないですか。答えがないなら、解なしって答えで終わりじゃないですか」

「その解のない問題に無理くりにでも答えをつけてきたのが、人間なんだぞ?」


 そんなことを言われましても。

 俺の考えは変わらない。だって人は一人以上の人として存在できないわけだから他人の生きる理由は分からないし、無から有ができたのか、もともと有だったのかなんて予想の範疇でしか語れない。


「まあお前にも、そういうことを考える時が来るさ」

「そうですね」


 できるなら一生来てほしくない。


「さて、じゃあそろそろ下りるか」

「そうですね」


 俺は弁当を片付け、先生はごみをまとめて、下に下りていった。

 これから午後の授業か。寝ないようにしないとな。

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