第七十二片 『一か八かの切り札として』
“現世”で大流行したモンスター討伐ゲームみたいな状況を目の当たりにするなんて、誰が想像するだろうか。
「キァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
いや、誰も想像しないだろう。こんな世界は夢のまた夢。そう思うのが普通だし、俺だってその普通の中の一人だった。
しかし、現に俺は今経験している。咆哮を上げる竜を視界の内に捉え、仲間とともに攻撃の態勢をとっている。
「フユ、来るぞ!」
「はい!」
竜は上空から一気にこっち目掛けて降下してきた。
何発か撃ってみるが、案の定、戦闘機の機関銃の弾すら跳ね返す鱗には歯が立たない。
寸でのところで、足に魔力を溜め、横っ飛びで回避する。
すかさず五倍弾を数発。これも効かない。
「ファイアッ!」
エースさんが一発目を放った。
弾はほぼ直線にも見える放物線軌道を辿り、上昇に入っていた竜の右翼に命中した。
しかし、竜は平気な顔でまた上空へと昇って行ってしまった。
―――*―――*―――
そんなことを、もう何回繰り返しただろうか。
五十倍弾まで威力を上げても、あの鱗には傷一つつかない。
どうすりゃいいんだ。
「冬さん」
手が詰まって悩んでいる所に、白雪が語り掛けてきた。
「今こそ、弾の変形を実践するときだと思います」
それは、エースさんと話していたあの技術。
弾の形をイメージによって変えることで、様々な用途に対応するという技。
「……ぶっつけ本番でやる気か?」
「やらないとやられそうなのに、やらない理由はありません」
……ユキは最初の崖の時といい、今といい、時々思い切ったことを言う奴だ。
でも、確かにやるっきゃない。
「ならいくぞ。形が歪だったときは、補正してくれ」
「分かりました」
よし。竜の方も疲れたのか、まだ滞空している。今のうちに形成するんだ。
銃を竜に向かって構えたまま、考える。
イメージするのは、槍のように鋭い弾。
目を瞑って、より鮮明に想像していく。
あの硬い鱗すらも突き通す弾。
逃げる余地を与えない速い弾。
通常より細く、先が尖っている弾。
名付けるとしたら……。
「『尖弾』」
俺は思わず口に出していた。
そして目を開けると、俺の言葉が引き金になったのか、銃口に小さな魔法陣が生成された。
青色の魔法陣からは、淡い光を放つ魔力の筋が銃身へと流れていく。
俺の手からも、同じように筋が伸びていく。
それが感じられる。
それらは近づくと、互いに絡み合い、結びつき、一本の太い線となった。
線の光が、一層強くなり、次第に消えていった。
すると、
「弾の変形、できました!」
白雪の嬉々とした声が聞こえてきた。
「よし、これで」
竜に対抗できる。
まだ決定事項ではないが、残弾から考えても、望みは大きいと思う。
「フユ、来るぞ!」
エースさんの声がした。視線を銃身から竜のいた方に移すと、そこにもう竜はいなかった。
真っ逆さまに地面に降下し、勢いそのままに俺たちの方へ超速低空飛行で向かってくる。
俺はすぐさま回避行動をとった。横にではなく、
「ふん!」
上に。