幕間 『緊急事態として』
昼とは打って変わって寒々しい夜の世界。砂漠を独り流れる風の音だけが聞こえてくる。
凛とした光を地に浴びせる月は、漂う雲によってその姿を隠された。
砂漠の真ん中にある都市では、見張りを除き誰もが寝静まっている。
と、そのときだった。
けたたましいサイレンの音が、空気を裂いて轟いた。
「緊急警報! 緊急警報! 」
仮眠をとっていた兵士たちが飛び起き、隊舎内を駆け回る。寝ぼけ眼のままシャキッとしない兵士がいると、同じ方向に走る兵の一人が背中を叩いて意識を強制的に現実に寄せる。
そしてここにも、寝ぼけ眼の兵士が一人。
「なんだなんだ、騒々しい……っておとととと」
自室で本気で寝ていたクエードが、部屋の前に押し寄せていた人波にされわれていく。
「おいクエード、何やってんだよ」
人波の中、すぐ近くから声が聞こえる。声の主は隣でクエードの襟に手を回し、クエードが波にのまれて隊員たちに踏まれないように引っ張って支えていた。
彼はクエードの同期にして、空軍航空基地の管制官を担当している。
「こんなところで会うなんて奇遇だな、タハナ」
「奇遇も何もあるもんか。全体召集なんだから当たり前だろ」
半笑いでタハナは言ってくる。
今回の緊急警報は、陸・海・空軍すべての隊員を対象にして発令されていた。その証拠に、軍隊舎の各部屋に張り巡らされている連絡管からは、今も隊舎長からの怒号にも似た声が吐き出されている。
「夜更けに緊急招集なんて、悪い予感しかしてこないな」
同僚の言葉に、クエードは首肯する。
「そうだな、ただでさえ変なのに、それに加えてコレときた。……もしかしたら、世界の終わりが近いのかも」
「余計な事言わずに、さっさと進めよ!」
言葉の途中で後ろのほうからヤジが飛んだ。
「あいつ、確か少尉になったばっかの新米じゃねえか?」
横からボソッと聞こえた誰かからの情報が、クエードの額に青筋を走らせる。
「落ち着け、クエード。皆こんな時間にたたき起こされてストレスが溜まってるんだ。昇進した奴なら、それがより重たく感じるってこと、お前ならよくわかるだろ?」
「……チッ」
舌打ちを最後に、彼らは静かに行列の先を目指していった。