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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
モルフェディア編
73/123

第六十六片 『関係作りとして』

 振り返ってこちらを見てくるメネスさんを見ると、よりいつもとの差異が分かる。

 いつもの深い青ではなく、髪も、目も、明るい緑に染まっていた。耳まで尖っている。

 オルタさんは敵の消失を確認すると、すぐに指輪をはめ直した。

 すると即座に耳は縮み、緑の髪が先の方から元の青色に戻っていく。

 いや、こっちの方が「染まる」なのか?


「冬さん、大丈夫ですか?」

「……ん? あぁ、大丈夫だよ、ユキ」


 唖然としている俺に語りかけてきたユキを人型に戻すと、ユキは俺の顔を覗き込んだ。


「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だって。ただ突然のことでビックリしただけで」


 そしてお前はその近さで話しかけてくるんじゃない。顔が目と鼻の先にあるなんて、病室生活でもなかったしどぎまぎする。


「やあやあ冬くん、大丈夫かい?」


 オルタさんが平然とこちらに向かってくる。含みのある笑みが「ビックリしたでしょ?」と無言で言ってくる。


「大丈夫ですけど、今のは何なんですか?」

「ただの封印解除だよ。とある約束でね」


 エルフということは、里から出るときの誓約とか、そういう類いのものなのだろうか。


「まぁ、時が来れば話すさ」


 そう言って、オルタさんは俺たちに四時間ほど休むように言ってきた。

 動けない人は戦力とは言わない、だと。

 悔しいけどそれは事実だった。仕方なくその日は、俺とユキは船内へと帰って体を休めた。


―――*―――*―――


「そろそろ出るか」


 思い出から現実に思考を戻し、俺は風呂を出た。

 宿に用意されていた服に着替えて、小脇に自分の服を抱えて脱衣所を後にした。


「冬さん、そろそろ帰りますか?」


 部屋に戻ると、ユキが小槌を持って二つ並んだベッドの間で待っていた。


「あぁ、頼むよ」


 言われてユキは頷いた。俺は小物を横の机に置き、片方のベッドに寝転んだ。

 そして軽く、小槌を振った。



 現世での一日は、また普通に流れた。

 起きて、朝飯を食べて、学校へ行った。

「幸子小林小林幸子」なんて言う野薪先生の授業で笑い、他の授業はなんとなくこなし、SHRが終わると同時に帰路についた。それから復習と家事を色々して、予習を終わらせ、寝る。

 なんてことはない。もう慣れた日常のまま。

 そしてまた、明日が……。



「おはようございます、冬さん」

「おはようさん、ユキ」


 宿のベッドから起き上がると、一つ伸びをした。

 飛びきらない眠気を洗面所で洗い流し、ついで服を着替える。

 ホルスターを腰につけて準備万端。


「ご飯は食堂でとることになってます。早くいきましょう」

「そうだな、行こう」


 もう十時過ぎ。多分じっと待っていたのであろうユキが目を輝かせるのも無理はない。

 相棒についていく形で、俺は食堂に向かった。



「やぁ冬くん、おはよ」


 手をあげてるのはオルタさんだ。空になった器からするに、もうご飯を済ませたんだろう。

 こちらも挨拶を返す。

 と、机の向かい側に座っているのは。


「よっ」

「こんにちは」


 昨日助けてくれた、エースさんだ。彼もここでご飯を食べていた、のか?


「冬くん、とりあえずご飯を持ってきてから話をしよう」

「あ、はい」


 言われるがまま、料理を取りに向かった。

 ここではバイキング形式のようで、さまざまな料理が所狭しと並んでいた。


「これはおいしいですよ!」「これは絶対食べた方がいいです!」とテンションを上げてユキが教えてくれるので、難なく盛り付けることができた。エビチリらしきものと、パスタらしきものと、カタツムリらしきものと……これ、うまいのか?


 オルタさんたちがいる円形のテーブルに向かうと、二人は間を詰めて空間をあけてくれていた。

 俺たちが座ると、オルタさんが一つ咳払いをした。


「冬くん、早速だが、君は今日、装置の配置作業には加わらなくていい」

「え?」


 いきなり作戦から降ろされた? な、なんで?


「その代わりに、やってもらいたいことがある。……やってもらいたいこと、というか、なんていうかなぁ。う~ん」


 うまく言い表せないオルタさんに、俺とユキは首を傾げる。


「まぁあれだ。このエースくんと友達になってくれ」


 話の展開が予想外すぎて俺は何も言えなかった。

 ちょっと待ってくれオルタさん。


「そういうことだ。フユ、だったよな? よろしくな」


 いやいやいやいやいや。そういうことだ、じゃないんですよ。

 勝手に話を進めないでくれ、お二人さん。

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