第六十四片 『旧知として』
「よく来た、アストリアの使者たちよ。私こそが、この国の国王にして国軍総帥、セラム・リンダースだ」
蛍光灯に照らされた鉄色の部屋の中に、彼はいた。
身に纏っているつなぎのポケットに片手を突っ込んで、こちらを向いてにやついている。とても国王には見えない。
「そっちのは久しぶりだね、え~っと……」
「オルタ・フォークランドです、セラムさま」
目を向けられて、オルタさんは膝をついて頭を下げた。
「いいよいいよ、そんなかしこまらなくて。君と僕の仲じゃないか」
「一応ここは公の場ということですので。公私混同はできません」
ぷくっと頬を膨らませる王を見ていると、本当に子供なのではと誤解する。
「ならはい」
セラムさんが自らほっぺに溜めた空気を吐き出す、と共に、一拍手。
「こっからは仕事関係なしの友達トーークっ」
んっ!? いきなり何を言い出すんだこの人!
「そんなことできるわけないじゃんセラムぅ。まだ本題にすら入ってないのに」
途端にオルタさんも立ち上がったし敬語やめたし。大丈夫なのか、こんなことしても。
「あぁ、そこの新人らしきお二人さん。特に彼、心配なら要らないよ。この国では僕の言うことが絶対だから」
国王の言葉が絶対……。まぁ軍部総統となればそれも可能だろうけど、一人や二人反発者が出ても不思議じゃない、ように思えてしまう。
絶対王政。はたまた信仰か、忠義か。何なんだろう。
「セラム、本題の話を一応しておきたいんだけど」
一応って。装置のことが第一なんじゃないんですかオルタさん。
「面倒は先に済ませといた方が後が楽だし、そうするか」
セラムさんの丸かった目付きが、一瞬で鋭くなった。気配もシャキッとした。
「あのお使い君、もとい飛行機君のおかげで、大体の事情は把握してるから。装置の配送はもう手配してある。始まるのは明日からだ。今日は予約しておいた宿でゆっくりするといい」
「お気遣いどうも」
言葉と声の調子だけだと、公私どちらなのか分からない感じの会話。建前だけはちゃんとしているけど、二人の中では普通に会話してるのと変わらない。みたいな。
そんな雰囲気が、目の前の光景から感じられた。
と、セラムさんの目がこちらに照準を合わせた。
「そういえば、そこの新人らしき二人、名前は?」
聞かれて一瞬ユキを見たが、ユキはこちらを見ると黙って頷いた。
つまりは、俺が先に言うってことだよな。
「自分は、清水冬と言います」
「私は何と呼んでもらっても構いませんが、冬さんからは白雪の名をもらいました」
「清水に白雪」と復唱したあと、手で顔を覆って下を向いたが、数秒の後「覚えたよ。これからよろしく」と言われ、その上あちらから近づいてこられ、握手をされた。
子供……いや大人にしても掌の皮は固く、想像以上の大きさを感じた。
「それじゃあ、今日はこれで終わりだよ。お疲れ様。宿への誘導はそこの飛行機君がしてくれるから」
セラムさんの指差した先には、変わらず立っているエースさんの姿があった。
セラムさんの目の合図に頷いている。
「では、案内しますので、ついてきてください」
それから俺たち三人は宿へとたどり着き、事故もなくここまで送り届けられた輸送隊と無事に再開を果たした。