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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
モルフェディア編
70/123

第六十三片 『使者として』

 背中に重い荷物ヒトを背負って歩くこと三十分。俺たちはようやくモルフェディア大陸を治める国の、その首都に着いた。俺たちが立ち止まった先にある、大きな白石の門の前では、誰か知らないが、ヘルメットを被っている人が五人待ち構えていた。うち、中央の一人は作業服のような黒い上着の袖を腰に巻いている。

 改めて近づくと、五人が深々と礼をしてくる。思わずこちらも会釈を返す。

 頭を上げると、真ん中の男性が胸に手を当てて、ゆっくりとその口を開けた。


「私はエース・クエード中尉です。先ほどのご無礼、どうかお許しください」


 また礼をする。

 この声、そして今口から出た名前。つまりは彼が、あの戦闘機に乗ってた人か。

 短い黒髪、伸びた顎髭、皺の少ない顔、引き締まっていて、しっかり日に焼けている体。アウトドアという言葉がとてもよく合う人だ。


「いいですよいいですよ~。君が来てくれなかったら多分こっち死んでましたし」


 手を振ってオルタさんが答える。

 確かに、あのままこの人の助けがなかったら消耗して死んでただろうな。


「他の部隊は? 装置は無事に届いていますか?」

「はい、あなたたち以外の輸送部隊は、無事にこちらに到着しております」

「そっか。ならまだよかった」


 オルタさんが一息吐く。


「その二人は、こちらで引き取ります」


 エースさんが言うと同時に、脇の四人がそれぞれ二人がかりで、俺たちが背負っている兵士二人を担ぎ、どこかへ連行していった。


「もう仮面にしてなくてもいいよ」とオルタさんに言われ、俺はユキを解除した。

「あの二人の階級は?」


 ぽかんとしてユキの方を見ていたエースさんは、オルタさんの質問で我に返った。


「両名とも少尉です。何年も前から共に修練してきた同志だったのですが、今回の件はどうも……。まぁ立ち話は何ですので、軍の司令部に案内します」


 エースさんは身を翻し、開かれた門の奥へと歩き出した。

 その後を三人で追いながら、俺は独り言のつもりで、疑問を小さく口にした。


「司令部? 城とかではなく?」


 呟いた声が、オルタさんには聞こえたのだろう。耳を小刻みに震わせたかと思うと、横顔を見せてきた。


「モルフェディアの統治者は軍の総帥でもあるんだ。そして彼は『もの作り』が好きだから、形だけの城より設備が充実している軍司令部を使うのさ」


 なんだか変わり者の臭いがぷんぷんするな。

 それに、形だけの城とは結構な言いようだ。


「はっはっは。形だけってのは私も同感ですね。あれは特別な日の護衛施設程度の役割しかない。ほら、あの塔が『城』ですよ」


 オルタさんは普通の声だっため、エースさんにも聞こえたらしい。エースさんが指さす方に目を向けると、そこには奇妙な建物が立っていた。

 天に近づくにつれ細くなっている、何角錐なのか分からない藍色の塔。

 しかしそれなら、今こそ使い時ではないのだろうか。


「アストリアからの使者なら身構える必要もない、と言って司令部におられるらしいですよ、総帥は」


 身構える必要がないと思われるのは信頼の表れだろうか。

 たとえ信頼であったとしても、形だけでも王として構えなくていいのか。


「まぁ、会えばそんな人ってことがわかりますよ」

「私は会ったことありますけどねー」


 オルタさんの何の気なしな発言に対する驚きが喉を通り越す前に、エースさんが到着を伝えてきた。

 見ると目前には、白亜の外壁を太陽に照らされる半球上の建物がででんと建っていた。

 東京ドームほどの大きさはあるだろう。装飾は一切なく、つるつるの壁の内外を隔てるのは、目の前の、局面に沿って作られた両開き扉一枚のようだ。

 エースさんが正面に立って手をかざすと、扉は音もなく開いた。中はエントランスのような空洞になっており、左右と正面に続く通路がある。正面への通路を守護しているのであろう二人の衛兵と何やら話し、左に続く通路に入っていった。

 後に続いて円に沿って作られた通路を歩くこと一分。ほとんどの扉が一枚であるこの建物内で、他とは違い二枚の扉で区切られた一室の前で、エースさんは立ち止まった。

 部屋の前に取り付けられたボタンを一押し。

 あまり間を置かずして、両扉は開かれた。

 その先にいたのは、


「……子供?」


 口からぽっと、今度はオルタさんにも聞こえないであろうほどの声が漏れた。

 奥行きのかなりある、広い部屋の中心で、一人の子供、らしき人が、俺たちに対峙するように立っていた。

 赤茶けた短髪に小麦色の肌。エポーレットのついた軍服を羽織っているが、百五十足らずの身長に大きな目も相まって、見た目は完全に子供である。だが、雰囲気が違っていた。

 こちらの面子を見回すと、彼は口の片端をくい、と上げた。


「よく来た、アストリアの使者たちよ。私こそが、この国の国王にして国軍総帥、セラム・リンダースだ」


 さっき出た言葉が、大声じゃなくて本当によかった。

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