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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
モルフェディア編
68/123

第六十一片 『追われ身として』

 延々と、地平線まで続く砂漠の中をひた走る。もうどれくらい走ったかも分からない。後ろからは無数の黒い影が追ってくる。息が苦しい。


「冬くん大丈夫かい?」


 涼しい顔でオルタさんが聞いてくる。


「あいつら、どうにか倒せないんですか」


 オルタさんは質問に対して眉をハの字に曲げて、困ったような笑顔を作った。


「それを考えるならまず、車を出てすぐの会話を思い出した方がいいな」


 車を出てすぐ……。

 走りながら、頭の中にある記憶を探した。


―――*―――*―――


 それは、突然だった。

 車での移動の三日目。

 平地を走行していた鉄板車の前側が砂漠に沈みこんだんだ。まるで、穴に落ちるようにして。


「うぉっ!?」『あいたっ!』「おおっ、なんだろうねぇ」


 つんのめって硬い前座席に頭をぶつけた俺やユキとは対照的に、姿勢と調子を崩さないオルタさん。軍人二人も大丈夫そうだ。すぐさま扉を開けて外に出た。おそらくは状況確認のためだろう。

 俺たちも後を追って外へ出てみると、前輪がすっぽりと砂漠に埋まってしまっていた。

 どうやら、巨大な蟻地獄の巣があったらしい。装甲車は、ずるずると蟻地獄の中へと吸い込まれ、数十秒後には影も形も見えなくなっていた。

 普通、これほどの蟻地獄があれば、突っ込む前に気がつくと思うのだが。それより、蟻地獄だと分かった瞬間に、俺たちに「逃げろ」の一声くらいないといけないと思うのだが。


「あちゃ~、こりゃあ駄目ですね。ここから歩きですか」


 オルタさんは後ろ頭を軽く掻いて二人の軍人に聞いた。それは至って平静で、普通の質問だった。

 でも、俺は言い知れない不安を感じていた。

 それは、この事故が未然に防げたのではという疑念も一因としてあるが。

 後ろからついてきているはずの、他の輸送隊の姿が、どこにも見当たらなかったことが、最大の要因だった。


「オルタさ」

「静かに」

「へ? むぐっ」


 とりあえずオルタさんに話しかけようと振り向くと、いきなり仮面の下に手が滑り込んできて、口を塞がれた。

 息はできるが、突然のことにびっくりする。


 しかしその行動の理由は程なくして分かった。

 辺りの砂から白い布がはみ出しているのが見えた。それも一つや二つではなく、何十も。車を囲うように出ている。端が千切れているものもあったし、黒く変色したりもしていた。


 明らかに不自然だ。

 目を凝らして見ていると、そのうちの一つがピクリと脈打った。次々に他の布にも連鎖していった。

 なんだか、嫌な予感……。


「ウルァァァァァァァァァァァァァア!」


 世界が滅亡したような呻き声と共に、布の下から人の腕のようなものが出てきた。包帯でぐるぐる巻きにされていて、隙間から見える腕は、腐っているのか、黒くなっている。


「あれは……ゾンビ?」


 軍人の一人が声を漏らす。

 疑問形にせずとも、見れば分かる。典型的なイメージ通り、典型的なゾンビそのものだ。一つ典型と違うのは、這い出てくるのが砂漠の上だということ。


「ですねえ。なんで港から首都への道にあれらが?」


 オルタさんは首を送迎役二人の方に回した。


「私たちにもわかりません。行くときにはこいつらはいませんでし」

「それは、どうしてですか?」


「た」を言わせず、珍しく食って掛かるように詰め寄ったオルタさんに、二人は何も言えない。

 いつになく厳しい目付きだったが、一息吐くと普通の目になっていた。笑ってはいない。


「まぁ、今は生きることを考えましょう。水が使えないなら、逃げる以外まともな策はない」


 不幸なことに、飲み水以外の予備は車と共に砂の下へと消えていた。

 俺や白雪は水魔術が使えるが、オルタさんは「ぎりぎりまで、それは使わないでいい」と言われた。同じ水でも、やはり魔術の水ではだめなのだろうか。


「よし、首都に向かって走りましょう」


 言いながら、オルタさんが先陣を切って走り出した。


―――*―――*―――


「水が使えれば……」

「二人は使えるらしいけど、使っちゃうと冬君の体力は多分もたないだろうから、これが最善策だよ」

『私も多分もちません。申し訳ないです』


 結局は、走るしかないのか。

 諦めをつけて、どこかへ向かってなおも走る。

 燃えたぎる太陽が、じりじりと確実に俺達の体力を奪っていく。

 今や後ろからついてくる形になっている軍人二人の息は、もう切れ切れだった。

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