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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
モルフェディア編
67/123

第六十片 『来客として』

「くぅぅ~……。やっと到着だ」


 梯子から桟橋に出てきて第一声、今回輸送してきたあの三脚型装置の一つを肩に提げて伸びをしながら、オルタさんは退屈そうに伸びをしながら呟いた。

 数週間ぶりの地面。足元が波に揺れる錯覚が起こって、少し変な感じがした。

 オルタさんから目を移し、桟橋の向こう、港町の方へと、視線を向けてみた。そこには、


「ここが、モルフェディア大陸の港……」


 エクセンハンに勝るとも劣らない大きな市街地が広がっていた。

 大きなレンガ製の建物が中心のエクセンハンとは違って、ここの建物は木の棒とか布とかで作られた簡素な平屋が多い。その中にぽつぽつと木製の建物だったり鉄製の建物だったりが建っていた。

 モルフェディアは大半が砂漠らしく、この港、エブロイテはオアシスを中心として発展した町らしい。道も舗装されておらず、風が吹けばサーッと砂が体にかかってきた。


「確か、連絡はいってるはずだから軍人探せって言ってたっけなぁ」


 いつの間にか隣に来ていたオルタさんが、キョロキョロと辺りを見回す。

 同じように見回していると、遠くから走ってこちらに向かってくる軍服姿の二人が視界に入った。


「あれだな」


 微笑みを浮かべながら、オルタさんは腕を組んで二人が来るのを少しばかり待っていた。



「いやぁ、はぁ、失礼しました。はぁ、タイミング悪く催してしまったもので、ははは」

「いやぁ、そういうときって困りますよねぇ、はははは」


 ヘルメットを手に持って頭を掻きながらペコペコ頭を下げてくる二人に、オルタさんはいつもの調子で答えていた。

 どこまでも笑顔変えないな、この人。

 軍人による言い訳話が終わると、すぐにその軍人二人は体の向きを変えた。


「ささ、装甲車を用意しておりますので、そちらまでついてきてください」

「了解しました~」と言いながら、オルタさんは二人について歩いていく。

「いくよ、二人とも」


 頷いて、俺たちはオルタさんの後について行った。

 途中でかなりの人で賑わう商店街を通った。


「またあんな女の人が出てもいいように、私が守りますから!」とユキが周りの警護をしてくれたおかげか、それを怪しまれたからかは分からないが、誰も手を出しては来なかった。

 商店街を抜けて、町の外が見えてきたくらいで、オルタさんは一つ質問を投げ掛けた。


「一つ聞いときたいんですが、その装甲車って狭いですかね?」

「ん? まぁそうですなぁ、少し窮屈に感じるかもしれません」

「そうですかぁ。分かりました」


 言い終わるなり、メネスさんはこちらに向いて、後ろ歩きをしながら小声で「ハクを装備しとくんだ。銃はすぐ腰のホルスターにいれて、ね?」と耳打ちしてきた。

 何だか分からなかったが、オルタさんが言うなら、言われた通りにしておこう。


「白雪」

「はい」


 光に包まれたユキは大小二つの光の玉に分裂し、大きい光は顔へ被さり、小さい光は右手に収まった。それぞれがすぐに仮面と銃に形を整えた。

 そして右手の銃は、腰についていた拳銃用ホルスターに入れておいた。


「ささ、こちらへどうぞ」


 顔をあげると、目の前には鉄板をガチガチ張り合わせてタイヤをくっつけたような平たい車が、砂漠の上に十数台停まっていた。今後ろから続々と来ているオルタさんの部下たちも乗せるための車だということは想像がついた。燦々と照る太陽光を反射してきて、目が痛い。

 二人のうちの一人が後部座席の扉を開けてこちらを見ていた。

 オルタさんに続いて、俺も乗り込む。二人で乗るには、十分の広さがあった。


「シートベルトしといた方がいいよ」と言われ、肩の辺りを探すと、現世のものとほぼ同じ形のシートベルトのアダプターがあった。席のそばにある差し込み口にカチッと差し込んで、準備万端となった。

 二人は外で地図を出して何か話してから乗りこみ、「それじゃ、出発しますね」とエンジンをかけ、いよいよ首都に向けて車が動き出した。他の車も次々と後を追って出発した。一行は列となり、砂漠の中を進んでゆく。


 ……しかし、


「う、うるさ……」

「我慢我慢」


 エンジン音が嫌に大きくて、耳を塞いでいても頭に響いてくるようだった。それに加えて、


「うっくっ。痛っ!」

「我慢我慢」


 砂漠にできている凹凸を越えるときの、上下する衝撃もかなりのものだった。

 こんな道で本当にあってるんだよなぁ。


「すみませんねぇ、魔物達の大量発生があって、今まで使ってた道が使えなくなりまして」


 ……つまり、やむにやまれぬ事態ゆえにここを通っているということか。


「いえいえ、お構い無く。安全が一番ですから」


 相変わらずの笑顔で、オルタさんは気持ちよい応対をしてくれた。

 オルタさんは接待なんかでは失敗しないタイプなのではなかろうか、と、左右に揺れる体をそのままに、気楽にも俺はそんなことを考えていた。

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