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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
モルフェディア編
65/123

第五十八片 『燦々として』

 オルタさんが扉をノックすると、「どうぞ」と中から聞き覚えのある声がした。扉を開くと、声の主はすぐ前に立っていた。

 ファラスで一緒に闘い、俺が療養しているときに魔術を教えてくれた、あのハハルさんだ。


「三人とも、準備はいいんだよね?」


 笑顔で聞いてくるハハルさんの後ろには、こじんまりとした空間が広がっていた。中は壁に掛けられた火で薄明るく照らされていて、扉と反対側の壁の近くに、和服姿ではあるが、見るからに魔術師だ魔女だといった人達が十数人ずらっと並んでいる。


「ハル~、こんなにいらないでしょ?」


 その人影を指差して言うオルタさん。


「これから私達も他のところに出るから、一度に集めといただけよ。転送要員は四人」


 と、ハハルは腕を組んで返答した。「分かってて言ってんでしょ?」と付け足すと、「いやいや全く」と清々しく、それが故にわざとらしく聞こえる答えを返した。オルタさんの目には笑みが絶えない。


 この人たち全員がかりで転送するのではないと聞いて、俺は内心ほっとしていた。これだけの人たちに周りを囲まれないことに対する安心なのだと思う。多くの人に囲まれる場所が、基本的に好きでないから。


「まずはあんたからよ。はやく乗った乗った」


 オルタさんの肩を叩き、奥へと急かす。扱いが雑なのは、メネスさんの時と同じだった。同年代だからか同僚だからか、または両方だからなのか。倉庫に入りながら、頭の隅で考えていた。

 扉を閉めると倉庫の四隅に配置された光源が光を強め、倉庫内を照らした。

 倉庫の床の中心には、直径二メートルほどの魔法陣が描かれていた。オルタさんが中に入ると、仄かに魔法陣に光が灯った。


「始めて」


 オルタさんが中心に立ったところで、ハハルが魔法陣の近くにいた魔術師四人に手で指示を出した。魔術師がそれぞれ呪文を唱え始めると、その四人とオルタさん、計五点を起点として、魔法陣に緑色の光が満ちだした。ファラスの時と、仕組みは同じらしい。円形を描きながら、部分部分でクックと曲がり、繊細な紋様を描き出していく。

 全体に光が行き渡ると、光がよりいっそう強くなり、オルタさんを包む。次の瞬間、オルタさんは跡形もなく消えた。


「冬くん、次はあなたの番よ」


 ハハルさんに呼ばれて、ワンテンポ遅れて返事をした。それから、魔法陣に向かっていく。


「気をつけてね」


 魔方陣に乗るときにぽんと背中を押してくれたハハルさんに、少し笑った。


 ―――シュンッ


 けたたましく鳴く虫の音が、建物の中にも聞こえてくる。それに、やけに蒸し暑い。ここらにも、夏と言うのがあるのかもしれない。魔法陣の外へと歩きながら周りを見回した。


「ここは転送所。主に俺らみたいなやつが使ってるんだよ」


 灰色の石造り。天井は高く、広々としている。十人くらいは不自由を感じずに入れるだろう。ここにあるのは、簡素なベッドと長椅子くらいだ。

 今、オルタさんが何か言ってくれたようだが、ほとんど頭に入っていない。


「おーい、冬く~ん? いいかーい?」

「……あ、はい」


 やっと自分の言葉に反応した俺に、なんとも言えない笑顔を見せてくる。

 かと思うと、オルタさんはいつもの笑い顔に戻った。ほぼ同時に、ユキが魔法陣から姿を現した。

 ユキの到着を確認すると、オルタさんは出入口に向かって歩きだした。


「これから港に行くから、はぐれないようについてきてね」

「はい」

「ハクも、お店の品に夢中にならないようにね」

「わかってるよ、もう昔とは違うし」


 ユキが膨れっ面を見せるなんて珍しい。昔ここで、この二人の間に何があったんだろうか。今は聞けるような状態じゃないから、またいつか、聞いてみよう。


「じゃ、いくよ」


 オルタさんは、転送所の扉を開けた。清々しい青に染まる空に、太陽が燦々と輝いていた。

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