第五十五片 『準備として』
「やあ、冬君。約束通り来たね。待ってたよ」
レジルさんは謁見部屋に俺たちが入ると腰を上げて、俺の方に向かって歩いてくる。真ん前に来たかと思うと、右手を出すように促された。俺が手を出すと、何かを渡してくれた。
「復活祝いということで、これをあげるよ」
それは、第一練石と同じような白い石だった。少し細長くて緩やかに弧を描いている。何だか、何かの骨のようにも見える形だった。
「それは第二練石、君の魔銃を強化することが出来る石だ」
これが、第二練石……。第一練石という名前を聞いたときから、もしやとは思っていたが、本当にあったとは。
「でも、ここでは強化できない。この町の鍛冶屋を訪ねに行ってもらいたい」
「鍛冶屋、ですか?」
「ああ、鍛冶屋」
―――*―――*―――
レジルさんから目的地への手書きの地図をもらって、俺と雪は町に出た。
城から出て一直線。初めて城へ行くときにも、それからも何度も通ったこの町の主要な一本道だ。周りの人たちから、。ちょくちょく声がかかる。
「えっと、表通りの八百屋と防具屋の間ってことは、もうちょっと先の……。あ、あそこか」
城から出て十分。八百屋と防具屋の間を覗き込むと、ずーーっと続く闇路の奥に、陽光に照らされている場所が見えた。
「ここの間の先であってるよな? この書き方」
「そうですね……」
決心をして、狭い路地を体を横にして進んでいく。
数分後、窮屈な暗い路地から、開けた薄明るい場所に出た。建物と建物の間に空いた空き地のようで、それほどの広さはないが、次元が歪んだように不自然に場所が空いている。
その空き地の中心に一つ。ぽつんと立っている、一軒の木の家が見えた。曇りガラスで中が見えないようになっている引き戸の上には、『かじや』と書かれた横長看板が掛かっている。
「かじや、だな」
「何か怪しい感じがしますね」
確かに、周りの雰囲気も相まって、怪しい感じは否めない。でも多分、ここがレジルさんの言っていた鍛冶屋なんだ。というかここの名前を、あの人は言っていたんだろう。
二回ノックをしてから、ガラガラと引き戸を開けた。
「ごめんくださーい。誰かいますかー?」
土間が広いのがある程度分かるが、明かりが一切ないため奥の方はよく見えない。
と、俺の声が聞こえたのか、パッと暖かな明かりが灯った。
中は一面土間、いや、これは鍛冶場か。
「何かご用かい? 若いの」
「!?」
いきなり近くから声がして、反射的に一、二歩退いてしまった。
気が付くと、目の前に背中を丸めた老人が立っていた。
身長は百五十前後。両目とも斬られたような跡があり、開いているようには見えない。頭は綺麗に光を返してくる。
「……ああ、そこにいるのはシロガネかい?」
おじいさんの顔は雪の方を向いていた。
シロガネ? 誰のことだろうか。
「いえ、私はハクと言います」
「……そうか」
ユキの返答を聞くと、おじいさんの声が少し冷めた。
「儂は炉打。この『かじや』をやっとる」
「あ、俺は清水冬です。レジルさんに言われて、コレを魔銃と合成しにきました」
そう言って第二錬石を見せると、ロダさんはそっと手を出してきた。練石を渡すと、おじいさんは手元でまじまじとそれを眺めた。
「懐かしいなあ。お前さん、こんなんなっちまってなあ」
独り言のように何かを呟いてから、ロダさんは俺と雪を中に招いた。
「じゃあ銃を出してくれ」と言われ、雪が銃を手渡した。次に「じゃあ終わるまで三十分ほど、そこの上で待っといてくれ」と、鍛冶場と隣接するように作られた居間へと案内された。
最後に「作業が終わるまで、ここを開けてはならんぞ」とどこぞの鶴のような忠告をして、鍛冶場と居間を仕切る障子をきちっと閉めた。
そこからは、金属を打つとき特有の、硬質で鋭い音が、何度も聞こえてきた。
時折音が止んで、ロダさんの何やら呪文のような小言が聞こえ、ロダさんの声が止まると、また金属音が鳴った。
「よし、でけたぞ」
作業が終わり、手渡された銃は、形こそそれほど変わっていないが、銃身に雪の結晶を模した装飾が施されていた。
「これでこの銃は一段と使いやすくなったはずじゃ」
「本当ですか。ありがとうございます」
頭を下げると、ロダさんはまあまあと頭を上げるよう促した。
「また、何かあったら来なさい。鍛えてあげよう」
「その時は、よろしくお願いします」
「ああ、じゃあの」
「はい」
俺達は引き戸を閉めて、城へと帰って行った。
―――*―――*―――
「王、持ってきた」
「ああ、フレア。ご苦労。オルタは見てないか?」
「どうせまた、屋根で寝ている」
「そうか。なら、時間には起きてくるか」
「モルフェディア支援、か」
「ああ。ハハル達がこの大陸の対応をしてくれているからな。コレをモルフェディアにも届けられたら、もっと出来ることは増える」
「そう、」
「ん? 何か不満か?」
「いや、少し不安があるだけ」
「そうか。なら対策を考えないと、だな」
「うん」
―――ギギギギ……。
「お、あいつらが帰ってきたかな」
「彼ら、か」
「ああ、今はあいつらに頑張ってもらうしかない」
「確かに。経験値も必要」
「そういうことだ。ほら、お前はそこに立っといてくれ」
「了解」