第五十四片 『医者として』
時が経つのは、こんなに早いものなのかと思わされた三か月。ファラスでの大蜘蛛戦の傷はもう完全に癒え、リハビリも順調に進んだ。
「んん。ここまでいけば、そんなに無理しない限りまた壊れるこたぁないだろ。行ってよし!」
「痛っ!」
診察室で背中に聴診器を当てられた状態からいきなり張り手って、鈴さんそりゃないよ...。まぁ、それをやっても大丈夫というのが、一番の治療証明になるってことなのだと考えよう、うん。
「冬さん、頑張った甲斐がありましたね」
横で雪が優しく微笑んでいる。
「ああ、お前もありがとな」
「いえいえ。あれくらい、パートナーとして当然のことですので」
雪は寝たきりの時からリハビリの期間中まで、ほとんど付きっきりで俺の面倒を見てくれた。
お前にとっては当然でも、俺にとっては特別で、ありがたいことだったんだよ。ありがとう。とは、恥ずかしくて口にできない。
「なーに白をじろじろ見てんだい。惚れたのかい?」
「なっ!何を言って!」
「レジルに、呼ばれてるんじゃないのかい?」
「あ、う、え?...。あ、そうだった!」
思考が付いていなかない。何なんだよ鈴さん。まったく。
白は、少し俯いてしまった。前髪で影が出来ていて、あんまり表情は伺えない。
まぁ、レジルさんには今日俺がこっちに来た直後に「今日は診察を受けた後、できるだけ早く謁見部屋に来てくれ」と言われたからなぁ。要請には応えなければなるまいと、なるたけ急いで服に袖を通す。
とうとう、この部屋ともお別れだ。白を先に行かせて、俺は後から部屋を出るようにした。
部屋の扉を閉める前。部屋の中をせっせと片付ける鈴さんに体を向ける。
「鈴さん。長い間、お世話になりました」
お辞儀をして、これまでのお礼を言っても、鈴さんはちっとも興味なさそうに作業を続ける。
「うっさいねぇ。怪我でも病気でもなくなったんなら、さっさと行きな。バカタレが。もう私に面倒かけんじゃないよ?」
返事はきっついお言葉だった。でも、
「はい、ありがとうございました」
その中に、確かにある、
「挨拶、済んだみたいですね。じゃあ、行きますか、冬さん」
「あぁ、そうだな」
一握りでは収まりきらない優しさが、ちゃんと見えた。