番外片 『小さな体の大きな愛』
これは、冬が”願世”に来る、ずっと前の話である。
リツォンコーネ大陸の、とある丘。
「ふ~ふふ~ん♪ ふふんふ~ふ~ふ~ん♪」
空って綺麗だなあ。どこまでも青い青い。
雲って不思議だなあ。ふわっとしてて、小さくて、大きくて。あったり、なかったりして。
「お嬢ちゃん、そこで何やってんだい?」
ん? 後ろから知らない人の声がする。
あ、きっとこのおじさんの声だ。ここらへんじゃ見かけない、変わったヒラヒラの服着てる。おじさんの後ろにいるのは……動物? おっきな鳥さんや、猫さんやウサギさんや、他にもいっぱいいる。
「ああ、こいつらか? 俺の家族みたいなもんだ」
家族。家族なんだ。皆。
「お嬢ちゃん、何やって……っておいおい、近づいたら危ねえぞ」
この狼みたいな子。フサフサしてて気持ちいい。可愛いなあ。
「フシュゥ」
「……ランクが懐いてやがる。こりゃすごいな」
「らんく?」
「そいつの名前だよ。普通は人を寄せ付けないんだが、お嬢ちゃんは別みたいだ」
ランクは「人をよせつけない」んだ。よく分かんないけど。
「ふ~ん、ラーンクー♪」
ランクをフサフサしてたら、他の皆も集まってきちゃった。
「クルルゥ」
「ウルゥ」
「キュ」
「グルゥ」
えへへ。みんなグリグリしてくる。
「皆も、可愛いよ♪」
皆可愛い。可愛い。
「こりゃあ参ったねえ。皆この子のこと、好きになっちまったのか...」
む。
「この子じゃないもん!」
「ん? ……ああ、悪かったな。お嬢ちゃん、名前は?」
あっ。私……。
「名前……」
「……そっか、名前が、ないのか」
おじさんはしゃがんで、私の頭をくしゃくしゃ撫でた。
「じゃあ、楓ってのはどうだ?」
「かえで?」
「そう、楓。秋になると綺麗に色づく葉をもつ木の名前だ」
「かえで……。うん、楓! 私、楓!」
「えらく気に入ったようで、嬉しいねぇ」
「おじさんの名前は?」
聞いてみると、おじさんは「うぐ」って言いながら笑った。
「俺、まだ結構若いんだけどなぁ。まぁそこはいいか。俺は椛って名前だ」
「もみじ……。よろしくね! 椛!」
「ああ、よろしくな」
これが、私と椛の、最初の出会いだった。