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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
療養編
58/123

第五十三片 『魔術レッスン 終了』

 風魔術の練習を始めて、早くも四週間が過ぎようとしていた。

 俺は目の前にいる二人に練習の成果を確認してもらうため、体を起こしていた。


「空を舞う風よ

 ここに吹け

ウィンディル』」


 左手に展開させた魔法陣の上を、折り紙の鶴が三羽仲良くクルクルと回る。


「流れる水よ

 留まり溜まれ

ウォーテル』」


 右手に展開させた魔法陣から、ビー玉大の水玉がぽぽぽぽ、と四つほど出現した。


「基礎魔術はちゃんとできるようになったようね。同時発動まで出来てるなら、今のところ言うことはないわ」

「はい、申し分なしです」


 よし、と内心でガッツポーズをしながら、魔術をそれぞれ解く。


 あれから毎日練習を続けた。一週間後に風魔術が案外できてきてると伝えたところ「じゃあ水魔術もしてみましょうか」と言われ、そこから水の基礎魔術も鍛錬を開始。どちらもそれなりにできてきたのが二週間半経ったころ。ここで「ここまで来たら同時発動もやってみる?」と更に課題を付け足された。今のように同時発動、同時維持ができたのがつい昨日だ。


「腕もほとんどよくなったみたいね」

「そうですね、鈴さんからは、骨格的にはもう問題ないと言われてます」


 療養に入って約二か月、俺の腕はやっと動かしても痛まないようになった。まあ、ここまで全く動かしてないから不自由極まりないが。


「それじゃ、私の魔術レッスンもここで一旦打ち止めかな」

「え?」

「だってこれからは、体のリハビリで大変でしょ? そうなると、多分ここから先の魔術はそんなに練習できないと思うのよ」


 ……なるほど。確かにここからは基礎魔術ではない。詠唱も長くなり、必要な魔力コントロールも比ではないと一度聞いた。

 まともに動いていなかった体を元に戻すのだから、筋肉痛やらなにやら、本当に大変なことになるだろう。そんな中では、基礎魔術でさえコントロールできないかもしれない。


「そうですね。今まで付き合ってくださって、ありがとうございました」


 俺がお辞儀をすると、「いいよいいよ」と笑顔で返してくれた。


「私も、成長する冬くんを見るのは楽しかったよ。また次の機会があったら、もっと上の魔術も教えてあげるね」


 ハハルさんは今日も今日とて忙しそうに、荷物をまとめ始めた。


「また任務ですか?」

「ええ、北の山に出た竜の討伐にね」

「竜、ですか」

「とは言っても、伝説級になるにはまだまだの人大の飛竜だけどね」


 この世界での竜は、どのような竜でも年月をかけるごとに強くなっていくものらしい。土竜、駆竜、飛竜、属性竜、そして古龍に分類される。しかし絶対数が少ないが故に、どの大陸でもめったに観測されない種族らしい。


「十分気を付けてくださいね」

「ありがとう冬くん、それじゃ……あっ」


 部屋から出ていこうと衝立に手をかけたハハルさんが、何かに目を止めて静止した。

 目線の先には、あれがあった。


「そういえばこれ、ずっと持って帰るの忘れてたね」


 ハハルさんが俺に説明するために持ってきてくれて、この一か月近くずっとこの部屋に置きっぱなしになっていた、白板だ。


「ごめん、預かってくれててありがとね」

「いえいえ」


 大したことはしていない。忘れていったものをそのまま置いておいただけだから、本当に大したことではない。


「それじゃ、行ってくるわね」

「「行ってらっしゃい、ハハル(さん)」」


 俺たち二人の揃った声に笑いをこぼすと、ハハルさんは白板を脇に抱えて走っていった。


「ふう、これでレッスン終了か」


 一息つくと、部屋に妙な違和感があった。


「あの白板、ちゃんと持っていきましたね」

「そうだな……」


 ……そうか。今まで部屋の片隅にずっとあったあの白板がないから、違和感があるんだ。


 それを理解したとき、「ああ、終わったんだな」と、現状がすとんと、胸に落ち着いた。

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