現片 今はいない二人
夏休み、自転車で行ける距離にある父方の祖父母の家に来ていた。
その理由はとても簡単なものだ。
お盆。
先祖の霊が家に帰ってくる期間。ここら一帯に住んでいる一族の人たちが一斉に集まる。その人数は両手両足の指では数えきれない。
その中に、俺もいた。
「冬、お前の番だ」
おじさんが声をかけてくる。段飾りの前の座布団が空いたのだ。
短い返事を返して、座布団に正座する。
線香二本に火を灯し、手で払ってから、香炉に刺す。
鈴を鳴らし、合掌する。
父さん、母さん。帰ってきてますか。
俺は元気です。
―――*―――*―――
清水秋政と、清水銀。
父さんと母さんは、俺が物心ついた時には既にこの世にはいなかった。
父方の祖父母は、「どこか遠いところに行った」と言うばかりで、そのころの俺にはあまり意味が理解できなかったが、「いない」ことだけは分かった。
母方の祖父母やその家の人とは会ったことがなく、中学の時に父方に尋ねてみたが、誰しもが言葉を濁した。それを見て、俺は二つの可能性を感じた。
誰もが知らない、または、語れないような事情がある。
それ以降、俺は自然に両親がいないことを完全に受け入れた。
高校に入るにあたって、祖父母から一つの家が与えられた。
「お前の両親が使っていた家だ。ここより高校に近いし、一人暮らしを経験してみるのもいいだろう」
そんな理由で、俺は現在の家に住むことになった。
最初はどうなることかと心配が拭えなかったが、近所の人が、特に佐野のおばさんがよくしてくれたことで、その不安も徐々になくなっていった。
―――*―――*―――
一通りの報告を終えて、席を立つ。
少しすると、お昼の時間になった。
わいわいがやがやと皆が話す。
俺はお酌をしたり、世間話をしたり、まあ、普通にしていた。
昼が過ぎればおじさんおばさんたちの子供たちと一緒に近くの公園に出て行って遊んだ。
子供の底なしの体力に翻弄されながら、俺はふと、天を仰いだ。
俺は、父母に誇れる人間になってるだろうか?
自問自答していると、子供たちに急かされた。追いかけてきてくれないと面白くない、と。
一つ息を吐いて、俺は再度、鬼と化した。
子供たちは笑いながら、俺から逃げる。逃げる。
先ほどの問いへの答えは出ていた。
どう転んでも、誇れはしないだろうな、と。