第三十五片 『白い姫様』
城を歩きながら、ユキに気になることを尋ねてみた。
「ユキはこの城に住んでたんだな」
さっきレジルさんは「部屋で」と言っていた。建物の特定がないなら、考えやすいのはこの城だ。しかし、そうであるとすれば、どうしてユキがこの城に……。
「はい、私は国王様の子供ですから」
「……え?」
まさか、ユキはお姫様?
「そういうことになりますかね」
何ということであろうか。俺は今まで王女と行動を共にしていたということか。
考え直してみると、いろいろと無礼があった気もする。
「気にすることはありませんよ。父が王になったのは私が生まれてからですし、それまでうちの家系は王族どころか貴族でもなかったらしいですから。平民と同じです」
レジルさんが、か。貴族でもなかったのに、一大陸をまとめる王になったのか。
「何故、レジルさんは国王に?」
「国民に、求められたらしいです。『あなたこそ、この国を統べるに相応しい。ぜひ国王になってほしい』と」
大陸の人が。レジルさんを。
「レジルさんは冒険でもしてたのか?」
「はい。魔王を倒す旅をしていたらしいです」
おぉ、ファンタジック。
「その最後で、私の母は命を落としたらしいです」
「…………」
詮索しすぎたか。俺のせいで、思い出さなくてもいいことを思い出させてしまった。
「母は、たぶん幸せに死んでいったと思いますから、私は母がいなくても、大丈夫です」
「どうして、そう思う?」
「なんとなく。胸の中で、母がそう言っている気がするんです」
「……そうか」
話をしているうちに、俺たちはユキの部屋の前に着いた。
「ちょっと待っていてくださいね」
部屋に入っていくと、ユキは押入れを開け、リュックと肩掛けバッグを取り出した。
「非常食、非常飲料水、魔力補給剤、あとは……」
次に、部屋の一角にある大きな箱の中から次々に必要物を取り出して肩掛けバッグとリュックの両方に詰め込んでいく。
「あ、そうだ。冬さん。ちょっとこちらに来てください」
「ん?」
どうしたのだろう。何かを見つけたようだが。
俺は手招きに従って部屋に入った。
「これまでは小規模だったので必要ありませんでしたが、これからは必要になるでしょうから、これを」
ユキは両手を広げて俺の方に寄ってきた。手には黒い紐のようなものが見える。
「それは?」
「通信用のチョーカーです。内臓魔力によって通信ができます」
「後ろを向いてください」というユキの言われるがまま回転すると、俺の首に何かが巻かれる感覚がきた。チョーカーに付随しているイヤホンを手渡され、左耳に挿す。
「これでいいのか?」
「はい。あとはこれを持てば、準備万端です」
肩掛けバッグをもらい、装備する。ユキも同じようにチョーカーをつけ、リュックを背負った。
「そろそろ集合時間ですね、謁見部屋に行きましょうか」
「そうだな」
ユキの部屋を出て、俺たちは来た道を戻った。