第三十四片 『大きな任務』
「こちらに来てまだ日も浅い冬君にこの任務をやらせるのは正直気が引けるが、今はどうしても回せる人員が限られている。危険ではあるが、実力が十分なら、やってもらう他ないと考えた」
レジルさんは淡々と語る。
「今回の任務地は、山に囲まれた西の村・ファラス。最近、今までこの大陸で確認されていなかった大蜘蛛の被害に遭っているらしい」
今度は西か。して、距離はどれくらいなんだろうか。
「距離にして、四百キロ」
「なっ……!」
四百キロ⁉ ラカンよりも遠いのか。
行くだけで数日かかるぞ。
「しかし今回は急を要する。だから、転送を使っていってもらう」
「転送?」
「詳しい説明は後でするよ」
あ、そうそう。と、レジルさんが何かを思い出して情報を付け加える。
「今回の任務はこれまでよりも難易度が跳ね上がることが予想される。その代わり、同行者は二人だ」
と、そのとき。
「だっしゃー!」
俺の横。謁見部屋に入るための引き戸が向こう側から跳ね飛ばされた。間一髪で回避する。
どうやら蹴り飛ばしたらしい。
足の裏をこちらに向けている剣士。それにもう一人、女性が斜め後ろに控えている。とんがり帽子を目深に被っていて顔がよく見えない。
足を下ろした剣士はずんずんと部屋に入ってきてレジルの真ん前に進み出た。
「レジル! どうして俺が“現世”の奴と……」
「馬鹿!」
「かはっ!」
一緒に来ていた女性が脇腹を目掛けて鋭い肘内を入れた。
剣士がその場に崩れ落ちる。
「申し訳ありません国王様。大人になっても減らず口で」
「いいさ、それくらいの方が」
女性は帽子を脱ぎ、国王に対して一礼した後、俺たちの方に向き直った。
「また会ったわね。冬君、ハク」
格好ととんがり帽子を見てもしやとは思っていたが、やはりハハルさんだったか。
うずくまっていた剣士、メネスも立ち上がって俺に半面だけ顔を見せた。
「俺の名乗りは前にしたから端折るぜ」
ふん、と鼻息を荒げてそっぽを向かれた。
俺はなぜあの人に嫌われているのだろうか。
というか、待てよ?
ハハルさんのフルネームは、ハハル・リンク。
メネスさんのフルネームは、メネス・リンク。
「えっと、お二人は……」
「双子よ」
やはり血縁関係があったのか。
「今回の任務はファラスへ向かい、町の警護、および周りの魔物の討伐、そして、目標の討伐をしてもらいたい」
そこまで言ったところで、メネスさんが声を上げた。
「目標ってのは何だ?」
「大蜘蛛のことだ」
レジルさんは冷静に答える。
「そんなの、あそこにいたか?」
「いない。突然発生か、それとも何らかの要因があるのか、それも調べてきてもらいたい」
「あんた、資料読んでなかったの?」
ハハルさんを「うるせーなあ」と煙たがりながら、メネスさんは部屋の出口に向かって歩き始めた。
「じゃあ、俺は荷物をまとめにかかるぜ」
「メネス」
レジルさんの呼びかけに、彼は足を止めた。
「お前には、十五分後にすぐ出発してもらいたい。できるか?」
メネスさんは「はんっ」と軽く笑うと、
「そのくらい、お安い御用だ」
と言って出ていった。
「冬君、ハク、ハハルは、荷物を整理して、三十分後にここに戻ってきてくれ」
「はい」「はい」「了解しました」
「ハク、部屋で冬君の分の荷物を作ってあげなさい」
「わかりました」
「それでは、解散!」
俺たちは謁見部屋を後にし、程なくしてハハルさんとも別れた。