第三十二片 『作戦』
そういうことがあって、今に至る。
が、
「これしきの攻撃じゃ、俺に攻撃を当てることはできないよ?」
二倍、五倍、十倍と連射しても、レジルさんはひるむことなくすべてをいなした。
「……」
考えろ。考えろ。どうすればいい?
今使えるのはこの魔銃と魔術が一つ。魔術は風属性。魔銃は倍化が使える。
「……白雪、あの風魔術、動きを指定することはできるか?」
「え? はい、ある程度ならコントロールできますよ」
「なら、頼みたいことがある」
――*――*――
さて、冬君はどうやってくるか。もうそろそろ時間が来るが。
「……………」
なんだ? 口が動いてるな。呪文か?
冬君は手を前に突き出して、息を吸い込んだ。
「『風狼』!」
なるほど、魔術を使ってきたか。でも、その程度の攻撃なら、私には……、ん?
風の狼は私ではなく、私の周りを回転しだした。そのうちに狼の姿もなくなり、辻風となって私の周りに土ぼこりを起こした。
ほう、目潰しとは考えたものだ。
次に来るのは、なんだ?
「……っ!」
土埃を巻き込みながら近づいてきたのは、今までとは比べ物にならない大きさの弾丸だった。
直径にして二メートルはあろうか。周りには風があるため横に回避することは不可能。となれば。
跳ぶ!
風の届かない高さまで飛ぶと、つむじ風の向こう側が見えた。しかし、そこに冬君はいない。
してやられたな。
――キンッ!
「まさか、撃ってすぐに後方側に回り込んでいるとはね」
――*――*――
「くそっ」
してやられた。まさか風の届かない上空まで逃げられるとは。
あの銃弾が晴らした土煙の向こう側にレジルさんがいることにかけて打ち抜く体勢に入っていたのに、上から出てくるなんて。
それなら、地面に着くまで撃ちまくってやる!
「連射だ! 通常弾でいい! 撃って撃って撃ちまくる!」
「はい! やりましょう!」
まるで俺の意気が移ったかのように、白雪も熱くなっていた。
いや、白雪もレジルさんに勝ちたいのかもしれない。
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
俺は銃の引き金を引きっぱなしにした。
いくつもの銃弾がレジルさんに向かっていく。
白雪は弾を次々に込める。
レジルさんは迫ってくる弾の数々を槍に擦らせることで後ろにいなしていた。
これまでにない連射を実現しているはずなのに、レジルさんにはこれっぽっちも効いていないようだ。
というか……笑ってる?
弾数が百に届くか届かないかくらい撃ったところで、レジルさんの足が地面についた。
俺の体力は残り少ない。
それに。
「十分」
レジルさんが、余裕の表情で言ってきた。
そう、もうそろそろだとは思っていたが、ここからはあちらからの攻撃が入ってくる。
だから、もう。
「お疲れ様」
目の前にいたはずの人の声が、すぐ後ろから聞こえた。
「……」
レジルさんの槍の柄が、俺の後頭部にコツンと当たった。
こうして、レジルさんと俺の決闘は、敗北という形で幕を閉じた。