第三十一片 『倍化』
ハハルさんとの任務中。
「冬さん冬さん」
「どうした? 白雪」
砂漠を監視していたところ、白雪が珍しく話しかけてきた。
「冬さんの魔銃には、倍化という能力があります」
「倍化?」
「はい。名前の通り、弾の威力を何倍かにできます」
「その分の魔力はもちろんかかるんだよな」
「まあ、それはそうです。しかし、一撃の大きさが勝負を分けるときなどは、使わなければならないこともあるでしょうから。練習しておいて損はないと思いますよ」
確かに、装甲が固い敵なんかには有効かもしれない。
「倍率を言ってくれさえすれば、私が弾を変えますから」
「了解した」
「試しに、あそこのスコーピアで練習してみましょう」
「あそこ?」
白雪が言う方向を向いてみると、そこには砂漠の砂と同じ黄土色の体をもつ、巨大なサソリが移動していた。こちらにはまだ気づいていないようだ。
「あの装甲は、おそらく普通の弾では通りません。少なくとも二倍は必要でしょう」
「なら、今回は二倍で頼む」
「はい」
照準を合わせていると、「準備完了です」と白雪から報告が入った。
普段より強めの反動をもって銃口から放たれた弾は真っすぐにサソリの甲殻へと飛んでいき、
「グギャァァァァァ!」
という痛々しい悲鳴を上げさせた。
背中の甲殻はひび割れ、俺の弾が突き抜けていった。
「おお、これはすごい」
「冬さん、呑気な事言ってる場合じゃないですよ! 早く逃げてください!」
「へ? ……っ!」
視界を確認して、俺はすぐさま振り向き全力疾走を始めた。
「キシャァァァァァァ!」
先ほど甲殻を割ったサソリが、俺を見つけて襲い掛かってきたのである。
前脚とでもいうのか、二つのハサミで何度も俺を捕まえようとしてくる。間一髪のところで避けてはいるが、このまま続けば俺は必ず殺される!
「冬君、跳んで!」
前からかけられた言葉を頭で理解するよりも早く、俺の体は足を踏ん張って宙を舞っていた。
俺の前方には、ハハルさんが立っていた。
何かを呟いている……。
「『嵐狼!』」
ハハルさんが前に掲げた手からは呪文に呼応し、狼の姿を模した風が現れ、奇声を上げていた巨大サソリを切り刻んだ。
「冬君、大丈夫?」
「はい、なんとか」
着地に成功した俺のもとに、ハハルさんが駆け寄ってきた。
自分で蒔いた火種なのに、ハハルさんの手を煩わせたのは申し訳ない。
「新技を試すのはいいけど、死なないようにね」
「……はい」
この人には、何もかもお見通しなのだろうか。