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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
第一章 変動編
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第二十九片 『願世 二』

「“現世”と“願世こっち”の違いは、おそらく魔物、魔力、魔術、亜人、精霊、神の有無だと思います」

 ふむ。


「魔物というのは、先ほど言われたように、魔性の憑いた動物のことです。私たちの世界で魔性の憑いていない動物はいません。魔性というのは、まあ、凶暴さとでも言いましょうか。強いほど危険で、弱いほど安全です」

「人間も魔性が憑いてるのか?」

「はい、人の凶暴さも、この魔性に関連するものだと言われています」

 なるほど。


「魔力というのは、体内で生成され、循環する力の源のようなものです。なので、魔力がなくなるとほぼ行動不能になってしまいます」

 ほう、ということは魔力の取り扱いには注意が必要だな。

「魔力には、七つの属性があります。火、水、雷、風、土、光、闇です。どの属性を使えるかは人によって決まっていますが、光と闇以外なら、訓練で身に付けられるという話も聞いたことがあります」

「やっぱり光と闇は特別なのか?」

「はい、こればかりは素養がないと駄目らしいです」

「素養もないのに光や闇の魔術を使おうとしちゃ駄目だよ? 本当に危険だから」

 ここで初めてハハルさんが補足をしてきた。その声と表情は真剣そのもので、何か言い知れないものを言葉の裏に感じた。

 

 一つ咳をして、ユキが話を戻す。


「魔術というのは、冬さんも一度使いましたが、体内の魔力を呪文によって性質変化させて体外に放出する技です。これにはさきの七つの属性の他に、複合属性のものもあります」

「水と風とか?」

「そうですね。その場合だと、氷属性になります」

 ふむふむ。


「亜人とは、人間と精霊の間に生まれた子と言われている人たちです。今ではその末裔ですね。亜人は大きく分けて五種類がいます。火の子、サラマンデルは、大柄の人が多く、力が強いです。水の子、ウンディーネは、半人半魚の姿をしている人たちで、回復魔術を得意とします。雷の子、ラボルは、気高い種族と言われていて、あまり情報がありません。風の子、エルフは、自分たちの森で暮らしていることが多いです。そのため、弓などが得意だそうです。あと耳が長いです。土の子、ドワーフは、土の中の国に住んでいると言われていて、物作りが得意です」

 なるほど、雷は聞いたことがなかったが、それ以外は童話でよく出てくる種族の特徴とほぼ同様だな。

「闇と光は?」

「いなかった……と思います」

「そうか」


「精霊は、この世界の礎となるものと言われる存在です。各地におり、人々を見守っているとも、それぞれ一人だけが千里眼で遠くから世界全体を見渡しているとも言われています。火のイグニス。水のアクアス。雷のウルクトロス。風のエアロス。土のオーシス。光のノア。闇のゼナ。この七つの精霊がいるとされています」

「存在の確認はされていないのか?」

「現在確認されているのは、イグニスだけだと聞いています」

 イグニスだけは確認されているのか。


「神については説明がいるか分かりませんが、一応。この世界では、神は天界という空の彼方のどこかにいるとされています。天界には、“現世”で伝えられている神々、また、“現世”や“願世”で神格視され、神となった者たちがいると言われています」

ほう。

「あ、冥界、人が死んだ先で行きつく世界は地の底にあるとされ、そこにも閻魔様たちのような神様がいます」

 ほうほう。


「私が説明できるのはこれくらいですかね」

ふう、と一息ついたユキに「お疲れ様」とハハルさんが笑顔を送った。

「じゃあ、これからは私の番ね」

 一つ咳をしてから、ハハルさんは話し出した。

「まずは大陸の形からね」

 そういえば、この世界の大陸がどうなっているのか全く俺は知らない。

「五大陸あるのは知ってるね? その別れ方を説明するよ。まずこのアストリア。ここはほとんど“現世”のアジアよ」

「ヨーロッパは?」

「それとアフリカがくっついて、一つの大陸になってる。アジアとの間には川というか、海というか、まあ水の隔たりがあるね」

 そんなことになっているのか。

「そのヨーロッパの辺りがリツォンコーネ大陸。そして南北アメリカを統合してラスフロス大陸。オーストラリアはほぼ変わってないね、モルフェディア大陸。そして、ムー大陸」

「ムー⁉」

 現世ではオカルティックな代物と化したあの伝説の大陸が、この世界にはあるのか。

「“現世”の伝説がどうかは知らないけど、太平洋のど真ん中にあるよ」

 そうなのか。一度は行ってみたいものだ。

「そういえば、海洋の名前は同じなんですか?」

 今、ハハルさんは太平洋と言ったが。

「いや、違うよ。太平洋はガラン洋。大西洋はセーメ洋。インド洋はハサ洋って名前になってる」

 ”現世”の三洋の名前も完璧に知っているのか。

「ハハルさんは何でも知ってますね」

「はは、何でもは知らないよ。“現世”と“こちら”の文明差が今どこまでのものなのかも知らないしね」

 それからハハルさんは、ユキの話の補足に入った。

「亜人は大きく分けると、正確には六つ」

「あれ、六種類目って?」

 ユキが素で聞いている。

 クスクスと笑いながら、彼女は答えた。

「ケットシー」

 それを聞いた途端、ユキは頭を抱えてうずくまった。

 一体どうした。

「これを忘れてちゃ、まだまだね」

 ハハルさんはおかしげに笑っているが、俺には何が何だか。

「ユキ、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

 頭を上げながら答えてくるが、本当に大丈夫なのだろうか。

「うずくまるほどのことなのか?」

「テストで間違えたようなものです」

 ……つまり、ハハルさんはユキの先生的な立ち位置というわけか?

「ケットシーは、獣のような体になっていたり、耳や尻尾なんかが付いたりした状態で生まれてくる人たちの事よ。最近になるまでは化け物呼ばわりされていたけれど、数十年前になってリツォンコーネのある一家によって変更が進められ、亜人認定されたわ」

 一家だけで世界に影響を及ぼすとは、その家とはどんなものなのだろうか。

「あとは、魔術の先、魔法について」

 また一つ、訂正ピンが増えてユキががっくりした。

「魔術と魔法って違うんですか?」

「違う、というよりは、性質的に魔法の方が高次のものなのよ」

 つまり、魔法の方が魔術より難しいということだろう。

「話は理解できた?」

「まあ、なんとなくは」

 よしよしと、ハハルさんは頷いた。

「私の補足はこのくらいかな。ハクもよくできたわね」

「今度は百点の説明をして見せます!」

「あはは、期待してるわ」

 ハハルさんは、明るく笑った。

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