表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
第一章 変動編
3/123

第三片 『急転』

 一人、コンクリートに覆われた地面の上を、家に向かって歩いていた。

 短い帰路の途中、後ろから人が走ってくる音が聞こえてきた。

 今いる道は、自転車が二台並んで通れるかどうかという細い道で、左側に家の塀があり、右側には小さな川が流れている。

 この時間にはほとんど人は通らないが、時々犬の散歩やランニングで通っている人を見かけたことがある。おそらく後ろの人もそんな感じだろう。

 俺は邪魔にならないよう、できる限り右に寄った。

 足音がだんだんと近づいてくる。もうすぐ俺の横を通り抜ける。その時だった。


 ―――ドッ


 右半身に何かが当たった感触と軽い衝撃が伝わってきた。次の瞬間、視界に小柄な人が映り、その人はよろめいて前に勢いよく転んだ。状況から考えて、多分この人が後ろから走ってきて俺に当たったのだろう。不注意な人なのだろうか。

 一応心配して、大丈夫ですか、と言いそうになった。


 言いそうになって、言葉は口の中で止められた。

 目の前でうつぶせに倒れているその人が、黒のダウンジャケットに、黒いジーンズのようなズボンを着ていたからだ。目深に被ったフードに隠れて顔は確認できないが、服装からすれば今朝報道されていた仮面を盗んだ人と同じだ。

 まあ黒い服装なら、好みの問題でやっている人もいるかもしれない。でも、もし犯人だとしたら……。


 俺が考えている間に、その人は起き上がった。

 身長は百五十程度だろうか。全体的にだぼっとした服を着ているので、体のフォルムは分からない。

 お腹を大事そうに片手で抱えながら、服についた砂をもう片方の手で払い、チラチラとこちらに目を向けてきた。

 もしかしたら、あの腹の中に仮面を抱えているのかもしれない。というか、そうでもなけりゃあんな姿勢にはならないだろう。今日は雨が降ってるわけでもないんだし。


 暗いフードの中で、やけに明るい髪の毛が揺れていた。


「…………」


 その人は、一歩ずつこちらに寄ってきた。

 合わせるように、俺も後ずさっていく。

 相手が足を速めれば、俺も速める。

 相手がさらに速度を上げてきたのを見て、本気で逃げようと足に力を込めた。


「あっ」


 こんなときに限って、コンクリートの小さなでっぱりに足を取られ、俺はそのまま背中と頭を強く打って地面に仰向けに倒れた。

 受け身もまともに取れず硬いコンクリートに頭を打ちつけたからか、視界のピントが合わない。耳鳴りがして、頭もくらついて、まともじゃない。

 もやもやとした世界の中で、黒い影がずんずん近づいてくるのが分かった。


 影は懐から何かを取り出して、それを俺に近づけてきた。

 腕で何とか防ごうとしても難なく払われてしまう。

 影は、俺の胸に何かを押し当てた。

 押し当てられた辺りが、じわりじわりと温かくなってくる。カイロでも押し当てられたか? とも思ったが、それは違った。

 影の手が、俺の胸から離れた。影の手は、なんだか赤く染まっているように見えた。


 自分で胸の辺りを触ってみると、温かくて、服を触る感じとは違う感覚があって、ぬめりがあって。

 手を視界に映るようにあげると、やはりそれは、見間違いでも何でもなく、紅に染まっていた。


 徐々に気が遠くなっていく。


「…………」


 これは、俺は、死ぬのかな。死んだあとって、どうなるんだろうか。

 そんなことを、悠長に考えていた。

 走馬燈なんてものも見えなかった。だから本当に死ぬのか疑問だった。どうでもよかった。


 でも意識が薄れていくから死ぬんだろう。そう思った。

 思っているうちに、俺は気を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ