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第二十七片 『温み』
「改めて、ハハル・リンクよ。よろしくね」
謁見部屋を出てから、ハハルさんは微笑みと共に手を差し出してきた。
「清水冬と言います。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺も手を出すと、ハハルさんは優しく握った。
「あんまりかしこまらなくてもいいからね?」
小さく首を傾げて言う彼女。
そうは言われても、初対面で、しかも自分よりも目上の人に対してかしこまらないわけにはいかないだろう。
「……はい」
そっちがいいというなら、俺はそうするのだが。
「まあ、いきなりというか、目上に対してはやりにくいかな?」
「…………」
今、何て?
「冬君がそれがいいなら、構わないからね」
「……はい…………」
押し付けのような感じのない、嫌みな感じのない言葉。
恥ずかしそうに笑いながら手を放すハハルさんは、そのまま歩き出した。
「城の前に、もう馬車が着いてるはずだよ。行こう、冬君、ハク」
返事をしてついていくユキに、俺も追随する。
なんてことない、普通のことを言われただけなのに。
手の温かさは、少しばかり残っていた。