第二十四片 『来客』
食事の中で、蓮が家主さんについて少し話をしてくれた。
「椛はな、いつもはリツォンコーネっていう西の大陸にいるんだけど、時々こっちに帰って来るんだ。料理の腕がめっちゃ凄くてな、帰ってきたときはこうして労働する代わりに飯を作ってもらうわけよ」
「まあ喜んで食べてもらえるし、俺も助かるからねえ」
なるほど。この二人は、持ちつ持たれつなのか。
というか、この人は西の大陸から帰ってきたのか?
この時期に。
……。
「椛さん。西の国から帰ってきたんですか?」
「そうだよ」
「目的は?」
「まあ、国王に状況を知らせるためかなあ」
やはりそうか。
「時間は大丈夫ですか?」
「心配しなくていいよ。時間は十分にある。洗い物をしてからでも遅くはないから、存分に食べてくれ」
「……はい」
心配しすぎたか。
そう思いながら次の食べ物に手を伸ばしていると、家の扉がノックされた。
少し間をおいてから、扉が開かれる。
「ああ、メネス君」
椛が朗らかに笑って対応する先には、重要な部分だけを守る局所的な鎧を体に纏った長身の男がいた。
白い髪のオールバックと腰の帯につけている刀。城ですれ違ったあの人だ。
「携帯食くれねえか」
「いいよ、ちょっと待っててね」
親しげに話す二人。椛さんは台所の方へ歩いていき、戸棚の中を探し始めた。
「でも、一番いいのはちゃんと料理を食べることだからね」
「分かってるって。……ん?」
笑って返答していた顔が、こちらを向いた途端にきょとんとした。
そして俺を見つけると、少し不機嫌そうにしながら歩いてきた。
目の前まで来ると、俺が座っていることもあって見下ろされる形になる。
「お前、“現世”から来たってやつか」
「……そうです。清水冬と言います」
「そうか」
なんだ、この尋常じゃない威圧感は……。
殺気っていうのはこういうのを指して言うのだろうか。
「冬さん、こちらは……」
「メネス・リンク。この国で一個部隊を持ってるもんだ」
ユキが説明するより先に、彼は口を開いた。その口ぶりは先ほどまでとは違い、そっけなく、突き放すような感触を覚える。
「メネス君。これでいいかい?」
とそこに、椛さんが小さな紙袋を持ってやってきた。どうやら探し物が見つかったようだ。
しかし、メネスさんはまだ俺から視線を外さない。
「ガルムのおっちゃんはお前のことを気に入ったみたいだけどな。俺はお前を認めねえ」
お前の居場所はここにはない。さっさと失せろ。
気迫と言葉がそう訴えかけてきていた。
身を翻すと、メネスさんは椛さんから紙袋を受け取った。
「椛、ありがとよ」
「体を壊さないようにな」
「あいよ」
短い会話の後、扉はゆっくり閉められた。
「……冬君」
椛さんが呼んできた。
「あいつのこと、どうか嫌いにならないでほしい。あいつはあれで、優しいやつなんだよ」
「……はぃ」
確かに、椛さんと接するメネスさんは、温和な感じがした。
でも、それなら何故あそこまで俺につっかかるんだろうか。
「優しいが故の厳しさ、って言えばいいのかな」
「そういうものですか」
「それに近い何かだよ。あいつのアレは」
「……」
言葉を噛みしめながら、俺はクロシシの肉をフォークに刺し損ねた。