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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
第一章 変動編
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第二十二片 『息抜き (?)』

 一日過ぎた朝方、俺が目覚めるとほぼ同時に、牛車は王都に到着した。


「ガルム。フユ、ハクと共に帰ったぞ!」

「おお、ご苦労だった、三人とも」


 城に帰ると、謁見部屋でレジルさんが待っていた。


「どうだい? 戦いには慣れてきたかね?」

「はあ、まあ、それとなく」

「そうかい。それならよかった」


 肘をついて笑う彼の目は、綺麗な弧を描いていた。


「さて、それでは今日は休みとし、明日からまた頑張ってもらうとしよう」

「了解しました」


 休み、か。

 突然言い渡された休暇に何をどうするか考えていると、途端に横やりが入った。


「休みなのか⁉ なら私に付き合え!」

「れ、蓮⁉」


 隣の部屋に続く襖が開け放たれ、快活な笑みを浮かべた蓮が突如侵入してきたのだ。


「こら、蓮。会が終わるまでは大人しくしていろと言っただろうが」


 レジルさんの説教もどこ吹く風。蓮はガルムに軽く挨拶をすると、「なあなあ、どうせやることないんだろ? なら私に付き合ってくれよ!」と執拗にせがんできた。


「なあ、いいだろ? 冬」

「お前はちょっと落ち着け。まず深呼吸しろ」

「そんなのしてられるかよ! 早く早く!」


 こいつ、遊び盛りの子供か何かか。


「というかまずレジルさんを見ろ」

「やだよどうせ怒られるんだから。だから早く出ようぜ」

「阿呆!」


 蓮の傍若無人ぶりに、ついに堪忍袋の緒が切れたレジルさんがドスドスと近づいてきて彼女の脳天にチョップを叩き込んだ。


「いってぇぇぇぇ! 何するんだよレジル!」

「ガルム。ちょっと外に連れ出しといてくれ」

「あい分かった」


 そう言うとガルムさんは蓮の服の襟をひょいと掴んで立ち上がり、宙ぶらりんのまま蓮は退場することとなった。


「ちょっと待て! まだ話は終わってない!」


――――パタンッ


 襖はいい音を立てて閉められた。その裏ではまだ蓮が抵抗を続けているらしいが、その声は次第に遠くなっていった。


「こほん。まあ冬君。今日はあいつについていくもよし、ゆっくり町を見物するもよしだ。自分の好きにしてくれていいからね」

「はい、分かりました」

「うむ。ではまた明日。ハク、冬君を頼んだよ」

「了解です」


 頷くと、レジルさんは先ほど蓮が出てきた部屋へと入っていった。



 さて、二人になったところで城からひとまず出て、俺たちは城門前の通りをぼうっと眺めていた。


「冬さん、これからどうしますか?」

「そうだなあ……」


 ヴァイゼルの仕事をしたときに、帰り際に「お駄賃くらいにしかならないけど」と町の人から五百と書かれた十円玉大の硬貨を頂いている。これを使って少しばかりこの町のものを食べてみたり買ってみたりしてもいい気はするが……。


「なんだ、やっぱり何も決まってなかったんじゃん」


 突然の声に後ろを振り返る。


「蓮、無事だったのか」


 門の小さな出入り口から顔を出しているのは、見まごう事なき紅蓮の髪の彼女だった。

 しきりに耳を揉んでいる。


「耳がどうかしたのか?」

「ガルムに大声で説教されてさ」

「ああ、そういうことか……」


 確かにあの人の大声は耳が痛くなる。経験者であるユキは体をブルッと震わせた。


「まあそれはさておき、予定がないなら私に付き合ってよ」


 三度目ともなると言う方も面倒になっているのか、蓮の口調は明らかに覇気がなかった。


「付き合うって言っても、何をするんだよ」

「暇な時に何するかって修練に決まってんだろうよ」


 ……そんな当然みたいに言われても。“願世”に来て数日の俺に常識を求めるな。


「いつ死ぬか分からないご時世だぜ? いざってときにもちゃんと対処できるように日々の鍛錬をしてこその兵士ってもんだろうよ」

「なるほどな」


 確かに言う通りではある。休暇をもらったからと言って、羽を伸ばしすぎてはいけない気がする。おまけに俺は初心者。まだまだ修練が必要なはずだ。


「冬さん、おそらくアレは蓮がガルムさんから言われたことだと思いますよ?」

「…………」

「…………」


 おい、目をそらすな、蓮。

 まあ、どっちにしろ正論には違いない。


「いいよ、その修練っての、やろう」

「いいのか⁉」

「いいんですか、冬さん⁉」


 ユキまでもが驚いている。


「俺はまだ戦い方がうまく染みついてない。大げさかもしれないけど、一日開ければ付け焼刃の戦い方も忘れる可能性はある。今は休暇でも頑張る時だと思う」

「よく言ったぞ冬!」

「……冬さんがそれでいいのなら、私も行きます」

「よし、じゃあ決まりだな! またあの森に行くぞ!」

「おう」


 遊園地に行く子供の様に意気揚々と進む蓮のあとを、俺とユキが追った。

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