第二十一片 『任務 四』
空を飛び回りながらこちらに奇襲を仕掛けてくる鳥たちを、一羽一羽、丁寧に仕留めていく。
「慣れたものだな。この三日で段違いに動きがよくなったぞ!」
「お褒めにあづかリ光栄です! っと」
クマに向かって体と負けず劣らずの大きさを誇る斧を振り回す大男さんに褒められるなどという経験は今までに一度たりともなかったな。
なんて、当たり前のことを考えながら、また一羽、両の翼を穿つことで再起不能に追いやる。
心臓や頭を直接狙ってもいいのだが、なにぶん対象が小さいため当たりづらい。ならば、面積が広く当たりやすい方が、二発必要になったとしても効率的にはいいというものだ。
飛び回る最後の一羽を撃ち落とすと、ガルムさんがこちらへと寄ってきた。
「よし、ここらで一度、町に戻るとしよう」
「そうですね」
もうすぐ昼だ。残りの目標数も着実に少なくなっている。
休憩をちゃんととることで、午後の討伐への英気を養おう。
それからも討伐任務は続き、翌日の昼頃にようやく目標を達成することが出来た。
ユキのお婆さんは帰り際にユキと抱擁を交わしたときに少しばかり目が潤んでいたが、最後には「ちゃんとやるんだよ」と孫娘の背中を押していた。
帰りの道中、帰りは行きほど急いでなかったのでゆっくり話せたのだが、ガルムさんが声をかけてきた。
「小僧。お前、心細くはないのか?」
「え?」
ガルムさんから飛んできたのは、思いもよらない言葉だった。今までは戦いの事とか、好きなものの話とかが主だったのに。
「お前はあちらから一人でこの世界にやってきた。一時だけとはいえ、周りは知らぬ人ばかりの世界に放り出されたわけだ。それなら、そう思うこともあるのかと思ってな」
なるほど、丁寧なお心遣いだ。
だが、これと言って不安があるわけではなかった。
「心細いって感じは、今のところ感じませんね」
「ほう、そうか」
……もしかしたら。
「もしかしたら、白雪がいるからかもしれません」
「ほう?」
白雪は、成り行きとはいえ俺を現世から願世へと導いた。その中で不安な場面はいくらかあったが、それでも、いつも隣にこいつがいた。
「まだ関係としては浅いかもしれませんが、でも、関係のある人が隣にいてくれることっていうのは、安心に繋がるのかもしれません」
真剣に考えて、そう答えが出た。
するとガルムさんは、唖然として動かなくなった。
様子を伺ってみるが、体調が悪いわけではなさそうだ。
と、
「……っぷ」
口が動いた。
「あっはははははははははは!」
その口からは、驚くほど大きな笑い声が溢れた。
「が、ガルムさん⁉」
どうしていいのか分からず戸惑ってしまう。
どうした? 俺、そんなに変なことを言ったのか? 何なんだ?
一分ほど笑った後であろうか、ようやく大口は閉じられた。
ガルムさんは、まっすぐにこちらを見つめてくる。
「……小僧、ハクをとれ」
言われて、ユキを人に戻した。
「名前、何というのだったかな?」
「名前、ですか?」
「そう、お前の名だ」
そういえば、ガルムさんはずっと「小僧」とか「お前」としか呼んでくれなかったな。
「冬。 清水冬です」
「そうか、フユというのか。……よし、飯にしよう、フユ!」
「……はい!」
何が起点になったのかはよく分からないが、どうやら気に入られた? みたいだ。
ユキは俺とガルムさんが笑いあっているのを、微笑みながら眺めていた。