第十九片 『任務 二』
任務地の町まで、乗り物に乗って移動するって言ったけど……。
「すごいスピードだけど大丈夫なんですかコレェ⁉」
前に座っているガルムさんに向けて声を張り上げる。さもないと車輪の音でかき消されそうだ。
「あ? ああ、心配ねえよ! 絶好調だ!」
微妙に話が通じてないような気がする。
手綱を握っているガルムさんは、言葉を続けた。
「安全第一でいってるが、振り落とされねえように気を付けろよ!」
「はい!」
聞こえているのか分からない返事を返して、俺は荷台の方に戻った。
舗装されていない一本道をひた走っている乗り物。それは。
「この牛車。大丈夫なのかホントに……」
古式ゆかしい牛車だった。黒くむつくけき牛の二頭立てで、速度としてはかなり速い。体感では五十キロほど出ているのではないだろうかと思う。
「大丈夫ですよよよよよ。これはガルムさんが持っていたものを元とに作られたたしっっかりした牛車ですかららら」
振動に合わせて声が揺れるのが面白いのか、ところどころ音を伸ばすユキ。
まあ内容が分かるからいいとしよう。
「そうなのか。……ガルムさんは貴族のおつきの人だったのか?」
呟きがこの騒音の中で伝わるわけもなく、ユキは首を小さく傾げた。
と、右側の車輪が小石を踏んだのか、車体が左に傾いたせいで、意識は体勢を保つことにすぐ回った。
「冬さん、さっきは何て言ったんですか?」
「え? いや、何でもないよ」
ユキはまた反対側に首を傾げながらも「そうですか」と話を切った。日本古文の話だから、話しても分からないだろうし、これでいい。
「小僧! ちょっと耳貸せい!」
時を測っていたかのように、ガルムさんからお呼びがかかった。
「なんですか!?」
「後ろから魔物どもがついてきておる! ちょいと追っ払ってくれ!」
それを聞いて、御簾で遮られている後ろ側をひらりと御簾を避けて覗いてみると、確かに狼か豹か、肉食獣らしき魔物たちが懸命に俺たちの牛車についてきていた。
「わかりました!」
「頼んだぞ!」
俺たちのやり取りを聞いていたからか、ユキも御簾を少し上げて後ろを確認していた。振り返ったユキの目と俺の目が合い、どちらからともなく頷いた。
「白雪!」
「はい!」
光になった白雪を顔に感じ、手に触れる冷たい金属の感触を確かめる。
銃を両手で構え、まっすぐ前に腕を突き出す。
蓮との演習の時はぶっつけだったから意識なんてしなかったけど、こうして落ち着いて迎撃するとなると変に色々考えてしまうな。
「冬さん、反動などは気にせず、ばんばん撃ってくれて構いませんよ! 私が何とかします!」
心強い相棒の言葉を聞いて、俺は引き金を引いた。