第十七片 『帰還』
帰る頃には、既に陽が沈みかけていた。
「たっだいま~」
「ただいま帰りました」
「……帰りました」
三人揃って、また王の前に帰ってきた。
ちなみに空間魔術の巻物は入口で兵士の一人に既に預けてある。だからここで開いて床が抜ける、なんてことにはならない。
「おかえり、三人とも。どうだった?」
「バッチリだぜ!」
「冬君の方は?」
「……まあ、なんとかできました」
「そうか、それはよかった」
おおらかに笑って、親指を立ててグーサインを見せてきた。
……父親がいたら、こんな感じなのだろうか。
いや、分からないが。
「さて、手始めの訓練も終わったところで、今日はもう時間だ」
こちらとあちらの時間は逆になっている。こちらが夕方の七時ごろなら、向こうも朝の七時ごろということになる。
「どうやって帰るんですか?」
「そういうと思って、帰るための道具をここに準備してある」
王はひじ掛けの下から、一つの小さな木槌を取り出した。丸っこいフォルムが、子供の頃に絵本で見た打ち出の小づちを連想させる。
「これは?」
「キコンの小槌という道具でね。魂を“願世”から“現世”へ、そして“現世”から“願世”へも送れる道具だよ」
つまり、それで俺の魂をこの体から出してあちらに送ると。
「さあハク。これを使ってみなさい」
「はい」
ユキが立ち上がり、国王から小槌を預かった。俺の前まで来て、再度座る。
「冬さん。いきますよ」
「お、おう」
緊張しているのか、ユキの口が真一文字に引き結ばれている。
俺まで怖くなって、目を瞑った。
「……えい!」
ユキが振った小槌が額に当たる感触がした途端に、俺の意識はなくなった。
☆☆☆
「ハク、その小槌、ちょっと当てればいいんだけどな……」
「ええ⁉ そうだったんですか⁉」
「思いっきりいったなあ」
“願世”の冬の額は赤くなり、白い湯気が上がっていた。