第十三片 『練石』
「私がこの国の王、レジル・コンフォードだ。好きに呼んでくれ」
「はい」
名前がそうなら、レジルさん、くらいかな。
「ここに呼んだ理由は聞いているね?」
「はい、ユキから聞きました」
「ほう。名前をもらったみたいだね。ハク」
「はい!」
「さて、それではあまり説明は要らないだろう。君にはすぐに魔物の討伐任務に当たってもらいたい」
かなり急な話だな。
と、そんな国王様に意見を言う者が一人。
「ねえ国王」
「ん? 何だ、蓮?」
子供のように手を挙げて発言した蓮は、肩をすくめて言った。
「いきなり任務なんて言われてもこいつは戦闘のいろはも知らないっぽいし、無理じゃないかと思うんだよ」
おいおい、もうちょっと言葉遣いに気を付けた方が……。
「ふむ」
レジルさん、何も言わないんですかあなたは!
「だから、私がまず『戦い』ってもんを教えてやろうと思うんだ」
まあレジルさんが何も言わないなら仕方な……。
「おい、今何て言った?」
「だから、私があんたに戦闘について教えてやるって言ってんの」
「何でお前が?」
「私以外に適任者がいないみたいだから」
「ユキは?」
「ハクはあんまり戦闘が得意じゃないんだよ」
「すみません。冬さん」
でも、蓮の教え方はうまいのですぐに身に付くと思いますよ? とユキは言った。
「いいんじゃないか?」
レジルさんまで……。
まあ、二人が言うなら俺は従うだけだ。
右も左も分からない世界で、そこの人が親切にしてくれるというのだ。乗らないのは失礼と言うものだろう。仕方ない。
「じゃあ決まりだな! おい、そうと決まれば早速行くぞ!」
「お、おい。待てって」
即座に立ち上がった蓮は俺の袖をしきりに引っ張ってくる。
対抗しようと思って立ち上がった俺だったが、力づくで入口まで引きずられていく。こいつ、どんな腕っぷししてるんだ……。
「おっと、出ていく前に、渡すものがある」
「え?」
蓮からレジルさんへと視線を移す。
渡すもの? 何だろう。今足りないものと言ったら……。武器だろうか。
「まずは、ハクを仮面にしてみてくれ」
「? はい」
言われた通り、白雪の名を呼ぶ。「はい」と白雪が返事をすると、その体はたちまち光の玉となり、俺の顔に急接近してきた。
「おいおいおいおい!」
余りに勢いよく近寄ってくるものだから、咄嗟に身構えて目を瞑ってしまった。
「ふ、冬さん」
白雪の声が頭に響いてくる。つまり。
「……もう既に顔に付いてるのか」
「みたいですね」
困ったように言う白雪。目を開いてみると、確かに独特の視界になっていた。
俺の後ろの蓮は、白雪が仮面になる姿を初めて見たからか「おぉ」と小さく感嘆の声を上げていた。
「さあ、これを受け取ってくれ」
レジルさんに目を向けると、何かをこちらに投げてきた。
「おっとっとと、っと」
一度は取り損ね、空中で数度もてあそび、それは俺の両手に収まった。
それは、掌に収まるくらいの大きさの、所々が歪んでいる白い棒だった。犬が咥えている骨にどことなく似ている気がする。
「これは?」
レジルさんに向けて尋ねたその時、渡されたものが発光しだした。
「ひゃっ」
「なんだ⁉」
ユキと蓮がそれぞれの反応を見せる中、歪な棒は見る見るうちに曲がっていき、細かな形が整えられていった。
完全に形成されると、光は次第に消えていった。
「これは……銃?」
俺の手に握られているそれは、オートマチック拳銃のようだった。装飾のない銀色のボディが何となく男心をくすぐる。
「今投げたのは第一練石という石で、君に合わせた武器に変化するものなんだ。君が持っているそれは、魔銃だね。ふむ、体内の魔力量が高いのか、それとも別の要因か。何はともあれ、『貴重』な武器だよ」
「そうなんですか」
これが……ねぇ。
「もうハクを人型に戻していいよ」
「あ、はい。ユキ」
俺が呼ぶと、仮面と銃はともに光の玉になった。
そのまま二つは一つの玉となり、人の形になった。
「あ、これ」
ユキが触る左の頬。そこにはさっきまでなかった湿布のような白い布が張り付けられていた。
ユキがそれを剥ごうとすると、たちまち銃の姿となり、「おお」とユキを驚かせた。そしてまた頬に近づけると、銃は布に戻り、「おお」とユキは二度目の感嘆を漏らした。
「それが君たちの武器だ。さあ、行ってきたまえ」
レジルさんは笑顔で、俺たちを見送ってくれた。
「行ってきますね」
「行ってくるぜ」
「……行ってきます」
二人につられて、俺も挨拶をして部屋を出た。
どういう顔をしているか不安になって後ろを少し振り向くと、レジルさんは笑顔で手を振っていた。




