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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
現世侵攻編
119/123

第百四片 最後の壁

「ありがとう、ございました」

「……強くなったな」


 蓮は一度お辞儀をすると、倒れ伏したままのタッカさんを置いて、階段の方へと歩いていった。


「……」

「何してる。さっさと行け」

「……俺たちを、是が非でも止めないんですか?」

「俺は、これがすべて正しいとは、思っちゃいないのさ。ただ、俺がやれることはした。ここから先、お前さんらに血を流させてまで止めるのは、俺のやりたいことじゃない」

「そうですか」

「でも、油断はするなよ。クロアは俺のようには絶対いかないからな」

「それは、分かってます」


 俺と春も、蓮の後を追った。


―――*―――*―――*―――*―――


 そこからは、ずっと円筒の壁に沿って階段がどこまでも連なっていた。

 途中でまた重力場が変わり、壁が床になった。

 目指す方向、頂上の方へと走り続けると、どこからともなく声が聞こえてきた。


「三人とも、よくここまで来たね」

「……野薪先生」


 逆光で姿は見えないが、声で分かる。

 そこに、先生がいる。

 俺たちの姿を見て納得したように、野薪先生は何度か頷いた。


「タッカは、まあ、あの人ならそうなるよね。残っているとしたら、ほとんどノーダメージだとは思ったよ。それより今は、まず労わないとね」


 労う? 何を? そして誰を?


「ロターシュ。お前はよくやってくれたよ」

「何のことだ!」

「四大陸の中でも、アストリアは最重要課題だった。何せ、あのレジルがいる国だからね。お前からの報告がなければ、色々と困っていただろう」

「……!」

「ムーのテクノロジーがなければ、お前との会話もままならなかったがね」

「ムーの……テクノロジー?」

「そう。同じ魔力を持つもの同士を、印によって繋ぎ、言葉を交わすことができるようにする魔法」

「そんな! 私はお前に魔法をかけられてなんか……!」

「かけたんだよ。あの日に」

「あの日?」

「お前がムーを発つ、あの日に」

「…………! まさか」

「そう。あの『お守り』だよ。言っただろう? 『お守りがあるから、私たちは話せている』と。最初の通信で」

「……」

「しかし、『お守り』はそれだけでは終わらない」

「……なんだって?」

「私を守る、盾になってもらおう」

「私がそんなものになるもんか!」

「だから言っているだろう。『お守り』だと。合言葉は、お前の本当の名前。『エスタニク・ヒミト・レーナ』」

「っ……!」


 クロアの言葉を聞いた瞬間、蓮は一瞬硬直し、直後に瞬間移動ともいえる速さで俺たちの後ろについた。


「くそっ!」


 蓮の回し蹴りを、すんでのところで避けて、俺たちはそれぞれ蓮から距離を取った。


「『お守り』を起動した。これでお前は、私に近づく敵のすべてを討ち果たす者になったわけだ、レーナ」

「……なんでその名前を知ってんだ!」

「お前を拾ったときに知った。そして、いつかのための切り札にしようと思った。あぁ、自分を制しようとしても無駄だよ? 印には、その体が朽ち果てるまで敵に抗い続けるよう記した。苦しむことはない。彼らが私に襲いかかってこなければ、レーナも、彼らも、私も、誰も傷つかない」

「野薪先生!」

「清水。お前は私の側の人間だと思っていた。いや。今も心の奥ではそう信じている。だが、今は君の答えを聞く時間を持っていない。もし答えたいなら、ロターシュを越えてやっておいで。早くしないと、共倒れすることになるからね」


 野薪先生は、そのまま塔の頂上へと向かって歩いていった。


「冬、やるしかない」

「でも……蓮は」

「なら、そいつの印とやらを、上書きすればいい。お前なら、出来ないことはないだろ」

「……」

「俺たちには時間がない。早く先に行かなきゃならないんだ。覚悟を決めろ」

「……」

「お前が無理なら、俺があいつを、お前の前まで引っ張ってきてやる」


 春は駆け出し、数本の剣を構えた。


「蓮、悪く思うなよ」

「春! くそ、こうするしかないのか!」


 春と蓮の戦闘が始まった。互いに一歩も譲らず、膠着状態になっている。

 俺は、一応は銃を構えているが、ほとんど撃てない。春が体勢を崩したのを蓮が突こうとした時だけ、牽制射撃ができるくらいだ。

 何発か弾がかすり、春の攻撃も当たり始めた。おそらく魔力を好循環させられる俺たちの方が、疲れにくいんだろう。

 これなら、どうにかなるかも……。


「……『ファースト・ブラスト』」

「……なんだ?」

『あれは、魔術です! しかも、体に負荷を与える類いの!』

『何だって!?』

「『セコンド・ブラスト』!」


 蓮の速さがさっきまで、いや、それ以上に速くなっている!

 春も裁ききるのがやっとの状態になってしまった。


「あれは爆発系列魔術の応用の『ブラスト』という技です。自分の魔力回路の中のストッパーを、魔力爆発で壊していき、体内回路の巡りを一気に活性化させる技です。ファースト、セコンド、サード、フォース、フィスタと段階が上がっていき、セクスタまでいくと、無類の力を出せますが、一歩間違えば死にます」

「……自己犠牲か」

「はい。しかも蓮は魔力操作こそできるものの、魔術はからきしです。爆発の威力を間違えでもしたら……」

「野薪先生が言ってた共倒れはこれのことか……」

「冬さん……」

「あぁ、わかってる。セクスタまで行く前に、あいつの中の印を解く!」

「意識介入の際は、私も手助けします!」

「よし、いくぞ!」

「はい!」

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