第百二片 剣と魔術
塔の中にも、何体もの魔物がいた。
ガルムさんが大体の魔物を一気に排除してくれていたが、数十階上ったところでさすがに魔力切れを起こし、戦線を離脱した。
そして、次の階層に進むと、敵は一人だけだった。
しかし、その一人は50メートルはあった間合いを一気に縮めて、レイピアを突き出してくる。
「危ねえなぁおい」
メネスさんが瞬時に俺と相手の間に割って入り、鞘で相手の攻撃をいなす。
ハハルさんが魔術で攻撃を加えようとすると、相手は即座に距離を取った。
そして。
「……」
一言も発することなく、腕が光ったかと思うと、特大の火球と水の龍を放ってきた。
「詠唱略式『堅牢なる偉盾』!」
目の前に現れた数枚の巨大な盾が、相手の攻撃に当たると共に爆散した。
ハハルさんはこちらにちらと目を向け、それからすっと目線を動かした。誘導されるように目線の先を追うと、次の階への階段が伸びていた。
「相手は魔術と剣術の使い手、私たちが引き受けますから、皆は早く上へ」
ハハルさんの指示に従い、俺たちは階段のほうへと走った。
―――*―――*―――*―――*―――
相手はなぜか冬くん達を攻撃しない……。
彼らが次の階に進むのを確認すると、相手は私たちに向き直った。
「アストリアが誇る剣の才と魔術の才。お相手出来て光栄だ」
初めて相手が話しかけてきた。しかし、あまり言葉を交わしたくはない。
「あなた、『魔術回路』を使ってますね」
「おお、よくご存じで」
やっぱり……。
彼は袖を捲り、腕に刻まれた複数の紋様を見せてきた。
「あれは未完成だったんです。だから禁忌になった。私はそれを完成させた。人体に影響がないレベルにまで押し上げた。何か問題でも?」
「いえ、障壁になるのなら何だって同じこと。たとえ相手が禁忌を使っていてもいなくてもね」
「そうだな、一回あんたとはやりあいたかったんだ。今回の俺はちょっと『特別』だからな。さっさと終わらせてあいつらを追いかけさせてもらう!」
「では、私もそうするとしましょう」