第百片 死んだと思っていた
冬達は先に行ったか。
でも、ここいらのやつを片さねえことには俺たちも続けねえ……。
「おらっ!」
敵に飛び乗り、殺しては次へ、次へ。振り落とされれば椛のところの魔物に拾ってもらいの繰り返しをしていたが、なかなか前に進めない。
「ザック、気づいてる?」
「何が?」
「ここらの奴ら、全部『魔』よ」
「……ああ、なんか変だと思ったら」
魔物じゃなく、下級の『魔』だったか。でもそれなら、使役してる奴がいるはず。
「……いた」
前方上空二十メートル。『魔』がたむろしてるところに人影が見えた。
「アスナロウ、敵の『魔』使いを見つけた」
「…………」
「おいアスナロウ!」
辺りを見回すと、ちょうど相手と同じ高度にアスナロウがいた。近寄る『魔』を倒してはいるが、その目は相手から動かない。
「……姉さん」
アスナロウの方へと接近しながら、通信機に入ってきた言葉は、小さすぎてよく聞こえなかった。
「っ……」
俺とメナは目線を同じにして、相手を見た時に分かった。
『魔』がたむろしているところに人がいるんじゃない。
人自体が、何百もの『魔』の集合体なんだ。
「アスナロウ。久しぶりだね」
「生きてたのか、ムー大陸で」
「あなた達から命からがら逃げ延びてね。おかげで『魔』の研究が進んで、下級の『魔』ならほぼ自在に操れるようになったし、中級四体との契約も成功させた」
「……人間をやめたか」
「そうしてでも、この実験の価値はあった。これで私はどんな『魔』にも対抗できる力を、いや、他の生物にだって、そうそう負けない力を手に入れた」
「あなたはもうシプラスの人間じゃない。その力を何に使うつもりだ」
「今はクロアに恩返し、というところかしら」
「そこからは?」
「使わなくていいなら使わない。でも、使わざるを得ない愚か者が出たら……」
「私利私欲のために『魔』の力を使うなら、シプラスの名のもとに裁く」
「そう。でも、あなたにできるかしら」
「やってみせるさ」
「どんなことだって姉に勝てたことがない弟が?」
「昔とは違う。それに、部下だっているんでな」
「ああ、後ろの二人ね。……あなたも当主らしくなったわね。その姿が見れて、嬉しく思う私がいるわ」
「そうか、できれば、喜びたかったな」
「今でも喜んでいいのに」
緩やかに、会話から相手が戦闘態勢に入っていくとともに、こちらも体勢を整える。
「ザック、メナ。あの人には上級の『魔』も憑いている。危ないと思ったらすぐ下がれ。絶対死ぬな」
「……了解」
「わかった」
こいつが大マジなことを言うってことは、相当ヤバい相手ってことだ。
最初から全力で行くぜ……。
「さあ、魂の駆け引きを始めましょう?」