第九十九片 命の花
飛来してくる鳥型の魔物を撃ち落としつつ、だんだんと大陸に近づいてきたが、塔の長さや大陸の大きさもあってか、正確な距離がなかなか測れない……。
「へっ、こんなん楽勝楽勝!」
俺以上に飛ぶことになれた中籠は、辺りを飛び回りながら手に持った三枚刃の鎌で敵を切り刻んでいる。
「おい、あんまり離れるなよ!」
「大丈夫だよ、今の俺に敵はいねえ!」
調子に乗ったのか、中籠は俺たちを置いて遥か上へと行ってしまった。
と、その瞬間だった。
「……!」
目の前を何かが高速で通り過ぎ、その余りの速さで生じた風に体を流された。
「中籠!」
先に行っていた中籠はその物体に直撃してしまったのか、遥か下の方に弾き飛ばされてしまっていた。
「冬、気を付けろ。また来るぞ」
中籠が心配だが、今は自分を守らなければなるまい。春が指さす方向を見ると、弾丸のような赤い物体がこちらに迫ってきていた。
「くっ!」
間一髪で回避するも、自分の位置を大きくずらされる。
体勢を立て直して相手の姿を確認すると、それは硬い鱗に身を包み、大きな翼を広げる伝説上の生き物だった。
「あの時よりでかいな……」
モルフェディアで戦ったものより数段大きい、山のように巨大な竜。
尖弾に変え、できる限り高速で射出してみるが、あまり大きなダメージは与えられない。春に至っては近づいて攻撃すること自体が難しそうだ。
「フユ、困ってるみたいだな」
通信が入る。この声はエースさんだ。
「あいつの相手は俺がする。お前らは先に行ってろ! 他の奴らも、俺がひきつけてる間に行け!」
申し訳ないが、それが一番の得策だろう。
「エースさん、頼みます!」
「おう!」
エースさんが機銃で竜の気を引いている間に、俺たちは急速にスピードを上げてその領域を離脱していった。
―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――
「よーし、あいつら行ったな」
他の連中が上に行ったことを確認し、操縦桿を捻った。同時に速度を急激に落とし、後ろについていた竜を離す。
「こういうやつは、まず目を潰すのが一番だ」
ガンガンに旋回し、機種と竜の顔を同一直線状に持っていく……。
「ここ!」
ジャストのタイミングで、戦闘機用の魔砲から二発の弾を発射。一発は顔をかすめただけだが、もう一発が竜の眼球を射抜いた。そのまま竜とすれ違い、距離を取る。
「よっしゃ……っく!?」
喜んだのも束の間、アラートが鳴った。
どうやら翼に被弾したらしい。幸いまだ空戦にそれほど影響はなさそうだが……。
「……ふんっ、……っこんのぉ!」
後ろから振り払おうとしても、なかなか相手が振り切れない。
本気で怒らせてしまったようだ。
「ぐっ!」
上昇中にまた一発。逆側の翼だ。……これはひでえな。
どうにか飛べるが、もう長くないか。
そう思うと、手が通信機に伸びていた。
「……どうした、クエード」
「マヤ少将、俺、やっちまいました」
「……」
「竜が一体、多分ここの領域にはこいつだけだが、曲者で。落としたら落としたで被害が出そうなんで、消滅させます」
「消滅? ……おい、まさかお前!」
「最後の花火なんで、打ち上げる前に報告です」
話している最中も、相手は何度となく火球を放ってくる。
「やめろ、そんなこと、私が許さん!」
「あんたに拾ってもらえて、俺、よかったよ」
「クサいセリフを吐くな! こっちも指揮があるんだ! そういうことは帰ってから言え!」
「じゃあな、マヤさん。通信終了する」
「おい、クエード! ……エース!」
通信を終わらせ、フルスロットルでエンジンをふかす。
そこから急減速。相手が開いている大口へ向かって……。
「いっけえぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
自分で仕込んでおいた最大威力の、自滅覚悟の魔砲魔術を解放した。
……ごめんな、彗燕。新しくなったのに、もう殺しちまって。