第九十七片 『目覚め』
夜明け前の自室で目を覚ました。
「……そうだ、ムー大陸が!」
窓の外を見ると、頭上を覆うようにして、ムー大陸が空から突き出していた。その周りは、なんだかモヤがかかっているようだ。
……ていうか、あれ?
なんで俺、この記憶を現世側で覚えてるんだ?
……いや、今はそんなことよりあれをどうにかしないと駄目か。
とりあえず着替えを済ませ、家の外へと飛び出した。
「…………」
驚いたことに、住民の避難は既に始まっていた。
多くの和服姿の人達が指示を出している。
よく見ると、その中には爺ちゃんたちもいた。
「爺ちゃん」
「おぉ、冬か! 今そっちに行こうかと……」
「あぁ、うん。てか、これは?」
「うん? 爺ちゃんたちが作った集まりじゃ。こういう災害の時に皆を助けられるように、とな」
「んなもん、いつの間に……」
「ずーっと昔からじゃ。……それより冬、その子は?」
「ん?」
俺の傍らを指差す爺ちゃん。その指先を追うと、見慣れた少女が目を閉じて側に立っていた。瞼が開き、視線が重なる。
「ユキ!」
「冬さん! よかった、成功しました!」
俺の姿を確認すると、ユキはすかさず通信機に手を当てた。
「皆さん、成功です! 来てください!」
「皆さん? ……って、まさか」
そのまさか。
次の瞬間には、青白い光と共にレジルさんと春、中籠たち、蓮、ハハルさん、メネスさん、ガルムさん、オルタさん、フレアさん、アスナロウ小隊、椛さん、マヤさんがその場に現れた。
一瞬の間のあと、頭上にはジェット戦闘機と椛さんの連れてる魔物達までもが召喚された。
周りの人たちが驚いていたが、爺ちゃんが先を急がせていた。
「なんで、皆さんが……?」
「冬、初めてハクに会ったのがこっちの世界だってこと、忘れてないか?」
レジルさんは、俺が願世を離れてから今までに三十分近く経過していること、その間にムー以外の大陸の長達と連絡を取って転送を行ったことを簡潔に説明してくれた。
「秋政……お前」
「父さん、ごめん、帰りが遅くなった。それに、また出ないといけない」
「あの子は……シロガネはどうした?」
「あいつは、ここにいるよ」
レジルさんが槍を出すと、爺ちゃんは何かを悟ったようだった。
「そうか。……あれは、どうにかできるのか?」
「する。俺たちの手で」
「わかった。地表のことは任せておけ。お前達は全員、あそこへ向かえ。人数的にもそのための部隊だろう? これは」
「理解が早くて助かるよ」
レジルさんが爺ちゃんとの話を終わらせるのとほぼ同時に、空に人のホログラムが大きく映し出された。
誰あろう、野薪先生の。