第十一片 『友達』
「いっつつつ……」
「大丈夫ですか、冬さん?」
ユキに肩を貸してもらいながら、俺はまた跳ね橋のところまで戻ってきた。
着地した後で鼻をさすってみたが、不思議なことに外傷は認められなかった。それ以上に服が破れたり擦り傷まみれになったりはしているが……。まぁ傷に関しては時間が経てば気にならなくなるだろう。
「いやー、すまんすまん」
当の本人は悪びれる様子もなく謝罪を述べてきた。
よくもまぁそんなに呑気に謝れるもんだ。これが日常だとでも言うのか。
「いつもの調子でついやっちった。許してくれな?」
……。
まぁもうどうでもいい。なってしまったものは仕方ないのだから。
「申し遅れたな。私は蓮だ。以後よろしく」
歯を見せて笑い、手を差し出してくる彼女。見た目から推定すると、年齢は俺やユキと同じくらいだ。
燃える炎をそこに閉じ込めたような瑞々しい赤の長髪を後ろでアップポニーテールにまとめている。髪と同じ紅色の羽織和服の下には腕にピッチリ密着する白地のアームカバーを装着している。脚もスマートに締めているズボンではあるが、どことなく和の香りを感じる。
「よろしく」と返して、ついさっき蹴とばされた相手と握手を交わした。
握手し終わってから、蓮は顎に指をあてた。
「身分は……そうだな、ハクの友達だ」
「ハク?」
聞いたことのない名前が聞こえてきた。
でも、ここで出される人物ということは、おそらく……、
「あっ、ハクというのは私の仮名の一つです」
やっぱりか。
「ユキはハクって呼ばれてるのか」
と、俺の言葉に今度は蓮の耳がピクッと反応した。
「んんん? も、し、か、し、て。ハク、この人が例の?」
ユキは笑顔で首を縦に振った。
「おおお! しかも今の言い草からしたら、名前ももうもらったのか?」
顔を輝かせる友達に、再度首肯を返す。
「こいつぅぅ! やったなぁ、よかったなあ!」
「えへへへ。ありがと」
ユキに抱きついて、頭をくしゃくしゃにする蓮。
二人のじゃれ合いを、俺はただ傍観していた。
それはすぐに終わり、一度ユキが咳払いをした。
「こほん、それではこれから、王城へと向かいます」
「王城って、あれのことか?」
俺が指さした方を見て、ユキは肯定した。
跳んだときに見えた、あの城。近くで見ると、ますます日本の城だ。
「通りをまっすぐ抜ければ城門です」
「私もついて行っていいか?」
「はい、一緒に行きましょう」
勝手にパーティが三人になった。まあいいけど。
「それでは、行きましょう」
ユキが一番に城への一歩を踏み出した。