解片 『雪』
「冬さん……」
冬さんが経験した出来事を、まざまざと見せつけられた。まさにその場にいるような形で。しかし、そこで起こる事象には何も介入できぬ形で。
倒れ込んだ冬さんを心配しに行っても、私の体は冬さんを通り抜けてしまった。
とてもひどく、悲しかった。
誰も、冬さんに手を差し伸べられなかったのだろうか。なんで、同じ部屋にいた子たちは黙ったままだったのだろうか。
考えていると、隣に、今の冬さんが立っていることに気が付いた。昔の自分を、とても痛そうな表情で見つめている。
私がいることに気が付くと、背を向けてしまった。
「冬さん」
「見たか? 今さっきの」
「……はい」
「あれが俺の過去の、トラウマだ。俺がこんなふうになったきっかけだ。自分で自分の考えを聞いて、今は違うと思うところももあれば、納得するところあった」
でも、大筋は間違ってないような気がする。と冬さんは言った。
その言葉に、私も頷いた。
「冬さんは間違っていないです。逃げようとせず、周りがどう言おうと自分を押し通した冬さんも、自分の力の大小を知って、周りに合わせようとした冬さんも、どちらも間違ってない。でも、一つだけ、間違ってると思ったことがあります」
「……それは?」と、恐る恐る冬さんは聞いてきた。
不安げな顔に、私は微笑んで、手を握った。
「もう少しだけ、自信を持ってもいいんですよ。あなたは、ちゃんとしています。それは、私が自信をもって保証します」
あなたのことは、この数か月間、私が一番近くで見てきました。その中で、どこか他人行儀だった冬さんを見た。自分を犠牲にしてでも誰かを助ける冬さんを見た。自然に打ち解けていく冬さんを見た。
あなたは全然、間違ってなんかいない。
私は胸を張って、そう言える。
冬さんは口を開けて固まっていたが、少しだけ笑って、
「そう言うなら、お前の言葉を信じよう」
私の手を、握り返してくれた。