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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
ラスフロス編
109/123

解片 『雪』

「冬さん……」


 冬さんが経験した出来事を、まざまざと見せつけられた。まさにその場にいるような形で。しかし、そこで起こる事象には何も介入できぬ形で。

 倒れ込んだ冬さんを心配しに行っても、私の体は冬さんを通り抜けてしまった。

 とてもひどく、悲しかった。

 誰も、冬さんに手を差し伸べられなかったのだろうか。なんで、同じ部屋にいた子たちは黙ったままだったのだろうか。


 考えていると、隣に、今の冬さんが立っていることに気が付いた。昔の自分を、とても痛そうな表情で見つめている。

 私がいることに気が付くと、背を向けてしまった。


「冬さん」

「見たか? 今さっきの」

「……はい」

「あれが俺の過去の、トラウマだ。俺がこんなふうになったきっかけだ。自分で自分の考えを聞いて、今は違うと思うところももあれば、納得するところあった」


 でも、大筋は間違ってないような気がする。と冬さんは言った。

 その言葉に、私も頷いた。


「冬さんは間違っていないです。逃げようとせず、周りがどう言おうと自分を押し通した冬さんも、自分の力の大小を知って、周りに合わせようとした冬さんも、どちらも間違ってない。でも、一つだけ、間違ってると思ったことがあります」


「……それは?」と、恐る恐る冬さんは聞いてきた。

 不安げな顔に、私は微笑んで、手を握った。


「もう少しだけ、自信を持ってもいいんですよ。あなたは、ちゃんとしています。それは、私が自信をもって保証します」


 あなたのことは、この数か月間、私が一番近くで見てきました。その中で、どこか他人行儀だった冬さんを見た。自分を犠牲にしてでも誰かを助ける冬さんを見た。自然に打ち解けていく冬さんを見た。 

 あなたは全然、間違ってなんかいない。

 私は胸を張って、そう言える。


 冬さんは口を開けて固まっていたが、少しだけ笑って、


「そう言うなら、お前の言葉を信じよう」


 私の手を、握り返してくれた。

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