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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
ラスフロス編
107/123

第九十四片 同調の極致

「今でもかなりのものだと思いますけど、その先があるんですか?」


 俺が尋ねると、レジルさんはこくっと頷いた。


「普通の同調の一段上。そして、基本的な同調の最終段階、完全同調だ」

「完全、同調」


 小さく復唱する。

 ユキが俺の横から質問を投げる。


「なんで私たちは、ここに呼ばれたんですか?」

「それは、ここがこの国で一番純粋な魔力が集まる場所だから、だ」


 レジルさんの言葉を聞いて、この空間の神秘的な雰囲気の謎が解けた気がした。

 神秘的というか、空気が重い。

 息をするたび、何かが入ってくる感覚がある。


「あの滝も、ただの水じゃないし、ここに生えてる木々も少し特殊だ。そんな環境を守るために、ここの回りは普通は入れないようにしてるってわけだ」

「なるほどです」

「今の話からして、ここでしかその完全同調が完成させられない、と?」


 春の問いに、「ここでなくても出来る人はいるだろうが、ここの方が都合がいいという話だ」と簡単に返すレジルさん。


「具体的には何をやんの?」

「それをこれから説明する」


 そういうと、レジルさんは俺たちを滝の方へ呼び寄せた。


「三人には、この滝に入ってもらう」

「「「え」」」

「冷たくないし、あんまり濡れないから安心しなさい」


 恐る恐る滝に手をつけると、水に触れた部分がピリピリした。体ごと滝に入ると、何とも言えない、ゾクゾクとした感覚に襲われた。

 俺に続いて、春、中籠も入ってくる。滝の横幅は、三人が定員と言った感じだった。

 水が服に染みてくる感覚はない。


「じゃあ、今立ってるところに座って」


 レジルさんに促され、足元の岩に腰を下ろす。

 するとレジルさんも川に足を入れ、俺たちの前に立った。


「よし、それじゃあこれから試練を与える。目をつぶれ」


 ……唐突だな。と思いつつ、指示に従う。


「危なくなったら俺がちゃんと止めるから、安心していてくれ。それじゃあ、始めるよ」


 パン、と手を叩く音を最後に、俺の意識は現実から遠ざかっていった。



「レジルさん、あなたは今何をした?」


 サクラの問いに、レジルは冷静に応える。


「簡単に言うと、彼らの気を失わせた」

「難しく言うと?」

「彼らを、精神の深い部分に落とした」

「なぜ?」

「これを踏まえて、君たちに彼らの深い部分を知ってもらうためだ」


 頭の中で話がつながらないのか、ユキは首を傾げた。


「君たちが仮面となっているとき、君たちは彼らの魂、意識とつながりを持っている。意識と言っても、それは表層に過ぎず、深層に行きつくことはまずない」

「そこで、契約者の意識を落とすことで、私たちがそこにアクセスできるようになった、と」

「そういうことだ」

「さっき『危なくなったら』と言っていたが、デメリットがある方法なのか?」

「深層には自分が普段感じなくしていることも蓄積している。つまりはトラウマだな。そしてほぼ百パーセント、彼らはそこに行きつく」

「……」

「だから、最悪の場合精神を崩壊させる危険がある」

「貴様!」


 サクラがレジルに斬りかかる。

 しかし、レジルは顔色一つ変えず、どこからともなく槍を取り出し、サクラの一撃を防いだ。


「落ち着け、何のために俺がここにいると思っている」

「……」

「ここからがこの試練の本題だ。君たちには、彼らの深層を理解し、そこから救い出してもらう」


 説明を聞いて、場が静まり返った。


「それぞれ、どうする? もし難しいと感じるなら、ここで引き戻すことも可能だが」


「私はやる。春のすべてを知ったうえで、受け止めてやる」とサクラ。

「彼を救えるのは僕だけだからね。それに、力を手に入れるためなら喜んで」とコトリ。


「ハクはどうする?」


 下を向いたまま、動かないユキ。

 固く握りしめた両手は、小さく震えている。


「……私は、正直不安です。私が冬さんを救い出せるのかどうか」

「……そうか、それじゃあ」

「でも!」


 震えを止め、カッと顔を上げる。


「私はやります! 冬さんの苦しみを、すべてを理解した上で、隣に立っていたいから」

「……そうか。それじゃあ、三人とも、それぞれの契約者の前に立て」


 面族の三人も水の中へ足を入れ、それぞれの相棒の肩に手を置いて腰を下ろす。


「彼らと同様、君たちが危なくなったら引き戻すからね。それじゃあ、行くよ」


 先ほどと同じ大きな音を合図に、彼女たちは、彼らの深層へと潜っていった。

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