第九十一片 疑問の面族
『かじや』の戸を叩くと、程なくしてロダさんが出てきた。
「おやおや、今日はお客が沢山だな」
「お久しぶりです、ロダさん」
「おお、お前は冬。そっちにいるのは春か」
「……そうだ」
俺、春と顔を向けたロダさんは、中籠を見て、眉を上げた。
「……? そっちのは誰だ?」
「お初だよ、じいちゃん。俺は中籠亮ってんだ」
「ほう、そうか。……お前さん、どこから来た?」
コトリへの質問。コトリは意表を突かれて「へ?」ととぼけた。
「僕は気付いた時にはこの世界にいたんだけど?」
「ほう。まあ、そういうこともあるか」
「何か気になることでも?」と聞いてみたが、「いや、年寄りの勘違いかもしれん」と濁された。
「それより、ここに来たという事は、錬成をするんじゃろう?」
「あ、そうでした」
俺と春は練石と武器をそれぞれロダさんに渡し、外で待っておくことにした。
「ねえ、ちょっと気になってたんだけど」
サクラの声に、全員の視線が集まる。
「あなたって、男の子?」
サクラの問いはコトリに対してだった。
ロダさんといい、何か気になるのだろうか?
「僕は正真正銘男だよ」
胸を張るコトリに、サクラは「ふーん」と難しい顔をする。
「サクラ、何か引っかかるのか?」
「引っかかるというか、『面族』で男なんて今まで見たことなかったから、意外でさ」
サクラの言葉に、ユキも、
「そういえば、うちの集落にも男は町から来るお手伝いさんたちしかいませんでしたね」
と言った。
確かに、ガルムさんと一緒に行ったユキの集落には女性がとても多かった。
「人間を模してるんだから、男がいたって別におかしくないでしょ」と答えるコトリは少し拗ねているようだった。
「まあそれもそうね。ごめんなさい」
話が一段落するときを待っていたかのように、タイミングよく『かじや』の戸が開いた。
「ほれ、これでまた一段と強くなったはずじゃ」
「ありがとうございます」
「……恩にきる」
ロダさんが持ってきてくれたそれぞれの武器を受け取る俺たちに、中籠は無言で「早く早く」と訴えてくる。
「中籠、うるさい」
「俺なにも言ってねえじゃん!」
「視線がうるさい」
「理不尽だ!」
確かに理不尽かもしれないが、うるさいのだからしょうがない。
「てか、はやく演習場行こうぜ! はやく新しい能力見ようぜ」
せがむ中籠は少年漫画を読む小学生のように目をキラキラさせている。
「分かったから、今から行くから」
「おう、行こう行こう!」
中籠に背を押されながら、俺たちは蓮の待つ城門へと向かう。
「中籠、痛い」
「はやく行くためだ!」
「痛い」
「口より足動かs……」
「痛いっつってんだろ!」
「あいた!」
商店街に、脳天チョップを受けた中籠の悲鳴を響いた。