第八十九片 おかえり
港から首都へと馬車に乗って帰ってくると、町中の人が出迎えてくれた。
「冬さん、よく帰ってきたね」とおばちゃんが。
「お前ぇ……もう帰ってこねえかと思ったぞ……」と涙ながらに大工のおっちゃんが。
他にも大勢の人が帰還を祝ってくれた。
「み、皆さん、ありがとうございます」
「人気者だな、冬!」
「……」
茶化してくる中籠と、無言の春。
「さぁ、このまま王城に行くぞ、冬君」
「はい」
前の馬車に座るレジルさんたちに続いて、俺たちは懐かしき王城へと進んだ。
中籠は道中しきりに首を右に左に動かしていた。ラスフロスの町並みとは一風変わったアストリア建築(和風建築)が物珍しいのだろうか。いや、でもこいつの故郷日本だよな?
「こっちの世界にも日本建築あったんだな!」
なるほど、そういうことか。
「俺、こういう家見るの初めてだわ!」
瓦屋根のことか? いや、それはいくらなんでも……。
待てよ。都市部ならソーラーパネルとか他の材質で屋根が覆われてたり、まずビルばっかだったり四角くて屋根が見えない家もあったりするか。
「それは言い過ぎだろ」
「春、俺の努力をどうしてくれる……」
「……? 何だか知らんが、悪いことをしたなら謝る」
「いや、まぁ悪くはないんだが」
「ん? 冬、春、何か言った?」
「いや、何でもない」
「そっか!」
幸い中籠には聞こえてないようだし、別にいいだろう。