第八十八片 残存
船は一度、ムー大陸の港に寄り、ムーの要人たちを降ろした。
ここに着くまで、俺は一度も船内で野薪先生と遭遇しなかった。少し話をしたかったが、仕方がない。
ムーの港は、石造りの建物が多かった。というより、遺跡のような場所にそのまま人が住み着いたようにも見えた。色を失った壁と、そこに生えている蔦や苔がそう思わせるのだろうか。
港町のすぐ近くまで森が続いていて、ずっと先には、とてもとても高い建造物が見えた。
モルフェディアでも同じようなものを見たが、あれはガラス的な材質だった。対してこちらの塔は他と同じく石造り。加えて高さは空に浮かぶ雲よりもかなり高い。
どうやって造り上げられたのか、魔術や魔法を用いてもあんなものが建てられるのか。
それとも、こちらのムー大陸でも、人智を越えた何かがあるのか。
すべては謎だった。
備品補充などを済ませると、船はすぐさま出港した。
一週間もすると、船はアストリアに到着した。
港にはもう一隻の船が用意されており、モルフェディア陣とリツォンコーネ陣はそれぞれに分かれて、別々に帰っていった。
……のだが。
「何で中籠たちも春たちもここにいんの?」
「何故って」
「それは」
「そういう定め」
「だから」
「です?」
「ユキまで疑問形で参加しなくていい。というか本当になんでなの?」
四人はさも当然のごとく、このアストリアに降り、二つの軍艦のどちらにも乗り込まなかった。
行く宛のない中籠はまだ分かるとして、春が残る意味が見いだせない。
「あぁ、すまない冬君。彼らを呼び止めたのは私なんだ」
「レジルさん」
「そうそう」
「俺たち呼び止められた」
水を得た魚のように、中籠とコトリは俺に向かって「そうだそうだ」とか言い出した。
春とサクラは黙って頷いている。
「まぁそういうわけだから」
「……分かりました」
理由説明が終わると、レジルさんはハハルさんたちの方へと歩いていった。
「俺たちも行こうぜ」
「そうだね」
中籠とコトリが駆けていく。
「行こうか、春」
「あぁ」
サクラと春が歩き出す。
「行きましょ、冬さん」
「……あぁ」
流れに流されるように、俺は皆のあとについていった。