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仮面と旅する別世界  作者: 楸 椿榎
第一章 変動編
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第一片 『今朝』

 春。無事に高校二年生に進級し、一ヶ月が既に経った。

 世の中は冬の寒さを克服し、少しのだるさと共に暖気を受ける。


「…………んぅ」


 窓を隠すカーテンの隙間から射し込む光が眩しい。

 布団を被ってあと五分だけ寝ようとすると、今度は枕もとの目覚まし時計が古風なベルの音を部屋中に鳴り響かせた。徐々に音量が上がっていくそれを手探りで黙らせ、布団の中からその文字盤を読む。


「……起きるか」


 仕方なく布団から身を起こして、トイレへと歩いていった。



「ふぅ」


 トイレから出て洗面所で顔を洗い、かけてあるタオルで顔を拭く。歯を磨き、うがいをし、リビングダイニングキッチンで朝食となる食パンをトースターにセットする。

 ジジジジとゼンマイの音が鳴る中で、テレビをつけてニュース番組のチャンネルに合わせた。

 携帯を開いて、SNSの新着を順に見ていく。

 そうこうしている内に食パンは焼き上がり、小気味いい音と共にスポンとトースターから小麦色の肌を晒した。

 それとほぼ同時にテレビは県のニュースに切り替わる。

 二枚のトーストを皿に取り、一枚ずつブドウジャムを塗っていく。牛乳をコップに注いで、リビングのテーブルに一緒に持っていき、椅子に座り手を合わせた。


「いただきます」


 テレビを見ながらパンを頬張る。

 春とは言ってもまだ肌寒い。身震いしながらもう一口。


 五分もしないうちに一枚目を食べ終わった。

 牛乳を一口飲んでから二枚目に手を付けた時に、テレビには気になるテロップが出されていた。


「続いてのニュースです。蔵式(くらしき)市の榊原(さかきばら)美術館で研究されていた『仮面』が今日未明、黒服姿の何者かに盗まれました」


 ……ほう、こりゃ大変だ。この美術館うちから遠くないし、


「この仮面はここ蔵式で発掘された仮面で、ほぼ傷のない状態で発見され、その製法がどの年代、どの文明のものとも違う異質な仮面だということで、各国から研究者が来日し研究していた超貴重資料だったそうです」


 おいおい、そんなものがこんな簡単に盗まれていいのかよ。まるで小説に出てくる怪盗だ。何面相だ。


「仮面は特別展にて期間限定で一般にも公開されていました。こちらが監視カメラに記録された映像です」


 画面はキャスターを映した明るいものから、薄緑色に切り替わった。暗視カメラというやつか。

 薄緑に染まった画面の中に、物の概形がかすかに分かる。

 と、画面左斜め下からフードを被ったダボダボの服装の人物が顔を出した。見やすくするためか、その人物だけ赤く縁どられている。

 何かを掻い潜るようにして仮面に近づき、防護用のカバーに手を当てた。すると、カバーは一瞬で円形にくり抜かれ、犯人は仮面を素早く取って来た道を駆け戻っていった。

 ……映像はここで切られた。


「犯人の特徴で分かっているのは、黒のダウンジャケットに黒のジーンズを着ていることだけで、顔は全く分かっていません。警察は多数の人員を導入して捜索しておりますが、未だ犯人の行方は掴めていない模様です」


 そこまで見て俺は電源を切り、最後の一欠片を口に放り込んで、残りの牛乳で胃に流し込んだ。

 服をさっさと着替え、最近では珍しくなった学ランに袖を通す。エナメルバッグの中身を確認してから、チャックを閉めた。


「行ってきます」


 誰もいない家に挨拶をし、鍵をかけて通学路に出た。

 さて、今日も一日が始まった。

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