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雨と猫と不思議な館

作者: 明星
掲載日:2015/12/09

急に思い立って、おかしなテンションで書きました。

クオリティーに関しては…………と言うことで。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 街にある路地を抜ければ、不思議な世界に辿り着く。

 よくある噂話。

 でも知ってるよ。それは噂なんかじゃないって。

 駄菓子屋さんと本屋さんの隙間の道を行くと、別れ道がある。それを左に行くんだ。

 次に右、左、真っ直ぐって順番に進むと、古くて大きな家に辿り着く。

 ドアにかかったプレートには『マレアの秘密の館』なんてどこかで聞いた事があるような文字が書かれてる。

 コンコンってノックすると、中から「は~い…」なんて眠そうな声が聞こえてくるんだ。

 傘を閉じて、ドアの横にある傘立てに入れる。ドアを開けて、「おはよう、マレア!」って声をかけるのが決まり。


 ここは子供しか辿り着けない不思議な館。しかも雨の日しか道が通じてないなんていう不思議な場所。

 大きくなったら記憶と共に消えてしまうんだろう。そう思うと、少し悲しくなる。

 マレアはなんとも思ってないみたいだけど。

 そんな僕達とマレアの1日は、今日も始まるのです。








「マレア、おはよう!」

「はい、おはよう」

 琥珀色の目に黒い毛。ピクピク動く耳とゆらゆら揺れる尻尾を持ったマレアは、正真正銘ねこだ。

 街にいるねこは喋らないけど、マレアは喋る。とても不思議で最初は怖かったけど、この場所自体不思議だから気にしない事にした。

 マレアはマレアだから、いいかなって。

「あれ? 今日は僕だけ?」

「他の子はまだ来てないよ。そのうち来るんじゃない?」

「そっか……」

 机の上に座ってるマレアは眠たそうに返事をした。

 そんなに眠いなら寝たらいいのに…。

 でも前にそれを言ったら、僕達が来るから寝るに寝れないんだって言われた。

 そんな事言われてもなぁ……。

「そうだ…。梨花はもう多分ここには来れないよ」

「梨花ちゃん? どうして?」

「まひるは知らなくてもいい事だよ。でも来れないと思った方がいいね」

「そうなんだ…」

 梨花ちゃんは近所に住んでる3つ上のお姉ちゃん。

 優しくて、大好きだったんだけど、もう一緒に来れないみたい。

 子供じゃなくなっちゃったのかな…。

「さぁ、まひる。今日は何して遊ぼうか」

 机から降りて、マレアは僕の足元に来た。僕もしゃがんでマレアと目を合わせる。

 尻尾がゆらゆらしてて別の生き物みたいに動いてる。

 マレアは小さな足を僕の靴の上に置いて、てしてし叩く。

 遊ぶって言っても何も思い浮かばないから黙ってたけど、マレアは早くって言ってるみたいにてしてし靴を叩いた。

「うーん…。今日は何か面白いお話ある?」

「話? そうだなぁ…。あ、じゃあまひる。今から外に行こう。面白い物を見せてあげるよ」

「面白いもの?」

 マレアは立ち上がってドアの方に歩いていく。僕も立ち上がってマレアの後を追う。

 マレアと外を歩くなんて初めてだ。いつも館の中で遊ぶから。

 マレアがねこ用の扉から出たのを確認してから、ドアを開ける。

 外はまだ雨が降っていて、水溜まりには灰色の雲が映ってる。

 僕はその時、雨がずっとやまなかったらいいのにって思った。そうしたら、ずっとマレアと遊んでいられるのに。

「まひる? どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ。どこに行くの?」

「秘密の場所」

 傘を広げてマレアの後ろをついて行く。雨の音しか聞こえない路地では、僕とマレアしか世界にいないみたいに感じる。

 実際、路地なんかに入ってくる人はいないから、僕とマレアだけなんだけど。

 僕は傘を差してるから濡れないけど、マレアは濡れないのかな。

 きっとマレアの事だから、濡れても気にしないんだろう。

 塀の上のマレアを見上げながら、僕は思った。

 そういえば、館に誰もいないけど、他の子が来たらどうするんだろう。

 まあ、いっか。

「まひるもいつか来なくなる時が来るんだろうね。まひると初めて会った時から、もう4年は経ってる。あと何年一緒に遊べるかな」

「いきなりどうしたの?」

「いや、なんでも。ただふと思っただけだよ」

 マレアは塀から降りて右に曲がった。

 マレアは時々不思議な話をする。マレアがいつもは気にしないような話をすると、僕は少し怖くなる。何かが終わるんじゃないかって思って。

 でもマレアは気まぐれだから、一々怖がってたらダメなんだって思う。

 自分がしたい事をしたいようにする、ねこそのものなんだから。

「ついたよ。見てごらん」

「……? わぁ、すごい…!!」

 僕の家からでも見えるくらいの大きな木。でも誰も木の根元には行けなかったらしい。

 大人が言ってた。木を目指して歩いても、絶対に辿り着かないって。

 そんな不思議な木が、葉っぱに水滴をくっつけて目の前で揺れている。

 太陽は出ていない筈なのに、葉っぱについた水滴がキラキラと輝いている。とても綺麗な風景だ。

 すごく大きな木だから雨宿りが出来るみたいで、マレアが座ってる。傘を閉じて僕もマレアの横に座る。

 風に揺れてカサカサ音を立てる葉っぱは、水滴を落とすためにわざと動いているように見えた。

「この木の根元に行けるなんて、誰にも言っちゃダメだよ」

「どうして?」

「こんな風に静かに暮らしているのに、人がいっぱい来たら騒がしくなるだろう? そんなの可哀想だ」

「そっかぁ……。うん! じゃあ、マレアと僕だけのひみつだね!」

 マレアは楽しそうに尻尾をゆらゆら。マレアが楽しいなら僕も楽しい。

 マレアと2人だけのひみつだなんて、だいぶ嬉しかった。これは館に来る他の子にも内緒だって事だから。

 マレアにとって僕は特別、なんて思ってもいいのかな?

 もしかしたら他の子ともこんな約束があるのかもしれない。

 でも今日は僕だけ。僕とマレアだけのひみつ。それで充分だ。

「さて、そろそろ帰ろうか」

「もう帰るの?」

「他の子が来てるかもしれないだろう?」

 他の子が来る可能性を忘れてた訳ではなかったらしい。

 マレアはすっと立って歩きだした。僕も傘を開いて慌てながらあとをついて行く。

 ―――向こうの空が青くなり始めている。

 もうすぐ雨がやむのかもしれない。

 それはいやだな。マレアとバイバイしなくちゃいけなくなる。

「まひるは子供のままでいるんだよ。何も知らない純粋無垢な子供のまま。そうしたら、長く遊べるからね」

「うん。僕、マレアとずっと遊んでいたい。だから、子供のままでいる」

 前を歩くマレアの尻尾がまた楽しそうにゆらゆら揺れた。

 帰り道。僕がしゃがんで水溜まりを眺めていると、マレアも隣に座って水溜まりを覗き込んだ。

 少し灰色が薄くなった雲が流れていく。雲の隙間から青い空が見え始めている。

 水溜まりは僅かな光を受けてキラキラしていた。

「そろそろ雨が止むね」

「そうだね……。マレアとバイバイしなくちゃ……」

「また遊びに来たらいいよ。いつでも待ってるから」

「うん……」

 雨は好きだ。マレアに会えるから。晴れの日も嫌いじゃないけど、やっぱり雨がいい。

 僕もいつかマレアの事を忘れてしまうんだ。そう思うと悲しくなる。マレアの事はいつまでも覚えていたい。ずっと、ずっと、大人になっても。

 そんなの、無理だってわかってるけど。

 僕は立ち上がって歩き出した。マレアも僕の横を歩く。

 傘に当たる雨の音が小さくなってきている。本当に雨がやむみたいだ。

 少し屋根のある道を通ると、僕がはいてる長靴の足跡とマレアの足跡がペタペタつく。

 路地にもねこはたくさんいるはずなのに、周りにはマレアの足跡しかない。

 みんな雨宿りしてるのかな。

 ねこって濡れるのいやがるみたいだし。

 あ、館が見えてきた。やだな。

 館につくとマレアはドアの前に座った。僕は少し離れてマレアの前に立つ。

 来た時と同じように、決まりがある。マレアに向かって「バイバイ、マレア」って言うんだ。

 僕はあまりこの言葉が好きじゃない。“バイバイ”なんて不透明だ。

 マレアはバイバイって言わない。尻尾を振りながらお決まりの言葉を言う。

 それを聞いたら帰らなきゃいけない。僕は知ってる。帰り際に振り返ったって、そこにはコンクリートの壁しかない事を。

「……バイバイ、マレア」

 マレアの秘密の館。とても不思議なマレアの家。

 大人は辿り着けない子供だけの場所。僕達の遊び場。

 僕はマレアと小さな約束をする。雨の日が好きになるおまじないを。

 次もまた、僕がマレアのもとへ行くために。



「また雨の日においで」



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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルに魅かれ読ませていただきました。 この小説の世界観が読者によく伝わる内容だと感じましたし、マレアの一言一言にも魅了され、ぜひ長編としても読んでみたい作品だと思いました。 [気になる…
2015/12/09 22:11 退会済み
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