噂
ハルは荷解きは既に終わっていたためホブゴブリンの足音で目覚めるとそのまま図書館へ篭っていた。
閲覧机の上に置いてある本は様々で、数学・植物学・政治学など多岐にわたる。
読んでいる間に時間はあっという間に過ぎイリウスの刻を過ぎていた。
グー
(お腹へった…)
お腹が限界に近いため本を一度片付け筆記具を持ちそのまま食堂へ向かう。
食堂は図書館と寮を繋ぐ回廊の男子寮側にある。
一度に学生が食事をできるよう机が細長く沢山の列を成している。
食堂は昨日より学生が多く集まっていた。皆やっと部屋を落ち着かせることがてきたのだろう。
各座席の机の上には魔術回路が彫ってあり、これに手をかざすと自分の魔脈を流れ料理が現れる仕組みになっている。
ハルは周りには気づかれないよう、手をかざす振りをしながら無詠唱で魔法陣を作りだし料理を出した。
出てきたのはタリス共和国料理だった。
スコーラは多くの国々、民族がやってくるため出てくる料理も日替わりで変わるのだ。
(タリス共和国手羽は生魚を食べると読んだことがあるが流石にここでは出なさそうだな…)
目の前の料理は魚の煮物に味噌汁、コメである。
それぞれどのようなものかという説明書きが毎回添えてあるのだ。
黙々と食べていると3人位で何か議論している話し声が耳に入ってきた。
「あの学生はやはりスコトスに連れて行かれたに違いない。時間もちょうどその位だったし。」
「時間的にちょうど良いからといって、断言は出来ないだろう?」
「そういえば、あの黒い塊?影?が目撃されたのって何時くらいなんだ?」
「確か星を見にいったジイさん達が帰って来る時に目撃されたって聞いたが」
「星はスコトスの刻に近づくにつれて見えなくなる、生徒が寮から出て行った時間と黒いのが目撃された時間が一致するなら、その黒いのが生徒を連れ去ったと考えてもいいかもしれない。」
「「なるほどー」」
「黒いのが何なのかは分からないけどな。でも、真夜中に黒いの見えたってことは、パンタレイの刻の前かもな。俺はグリフォンの影だと思うな。グリフォンに連れてかれて喰われたんじゃないか?」
「でもその後、騒ぎになってないよな。監督生あたりが寮に入った学生の人数を把握しているんじゃないか?」
「あー、確かに。」
「戻ってきたのかな?」
「でも中央の所で寝ていた奴がいるらしいんだが、扉が開くような音はしなかったらしい。」
「なんか、怖くなってきたんだけど…」
「おれも。」
ハルは聞いていくうち顔が青ざめていった。
よくよく周りを聞いてみれば、殆どその話で持ちきりである。
(見られるとか、全然意識してなかった ……….昼食で学生が寮から出払っているうちに魔法陣を描いてしまおう)
ハルは決断すると全てかきこみ、早足で寮へと戻っていった。
(ドアから出入りしているような様子も見せた方がいいってことだよな。良かった、角部屋だから偽造工作が見破られる可能性が減りそうだ。)
先ずは男子寮の元自室のドア前に立った。
転移の魔術、魔法は出る所と入る所の両方に回路、陣が必要である。
(転移の他にドアの開閉があるようにしないとな、で魔法陣が見えないようにしないと。)
数分考え描く魔法陣が決まり、床に置いたインク壺に羽ペンの先をつけた時だった。
ドアが勢いよく開いたのだ。
思いっきり顔面にドアが当たりよろめいた。
「ぐぇ」
「あ?何か言ったか?」
「何も。」
「開く時も何か抵抗あったんだよな。」
ヒョイっとドアの向こう側に顔を覗かせてきた。
ハルは片手で顔面をおさえている。
「おっハルじゃん。何してんの?」
「い、いや…」
「?何で羽ペン持ってんの?落書き?」
「どうせ、今日の噂話しを聞いて転移回路でも書きにきたんだろ。」
「あ、なるほどな。やっぱりあれ、お前だったんだな。で、スコトスってどんな奴だった?男?女?美人?ブス?」
「いえ、見てないですし…」
矢継ぎ早に質問され困惑する。
「あの影もお前んだろ?空でも飛んでたの?グリフォンと遊んでたの?竜と遊んでたの?仲間に入れてもらえる?」
「屋根を足がかりに部屋に戻っただけです。」
「なんだよー、つまんねーな。見損なったぞ。」
(勝手に見損なわれてもな…)
「アレン様、困ってますよ。見られては回路も書けないでしょうし、食堂へ向かいましょう。」
「そうだな。ハル、んじゃな。」
暫し呆然と彼らの背中を見送り、羽ペンを落としそうな所で意識が戻り手早くドアの横に魔法陣を描いた。
ハルはそのまま寮を出つつ、背景と同化する魔法を使って昨日と同じ方法で自室に入り壁に魔法陣を描いた。
(昨日もこうしとけば良かったんだ。)
堪えきれず溜息をつく。
(気分転換しよう。やっぱり私は人が多い所は苦手だし。疲れたし。…人っていうよりあの金髪さんが苦手なのかもしれないけど。)
ハルは窓から飛び降り寮の脇にある森林へと分け入っていった。
(木が私を呼んでいる気がしたんだよね。アデルがいるのかな?)
足は目的地がわかっているように迷いなく進んでいく。
足に任せながら目線を全体に向ける。
(いや、この森林の木は私を呼ぶほどのタオを身につけていない。何に呼ばれているんだ?)
森林が開けている場所があった。
足がそこで止まる。
そこは小さな丘となっており、よく日が当たる場所で濃緑の草葉が反射で新緑のように色づいていた。
開けた場所の一番日が当たる所には小石が積み上がっていた。
そこにローブを着た2つの影があった。




