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魔術学園でのあれこれ  作者: あめ
第ニ章
40/41

準備

ハル視点です。

「ハルくん。こんにちは。」


私を薄暗い部屋の隅に連れ込んだのはアリビス人のシンディだった。

肘を私の顔の横について、逃げさせないようにしている。

長くカールした睫毛に縁取られた灰色の瞳で顔を覗かれている。

顔がやけに近かったり、胸を押し付けられているのは気のせいだろうか。


「あら、反応しないのね。」


シンディは私の股の間を見る。

ああ、わざとだったのか…。


「ハル君ってそっちの人?」

「違います。」


うん?でも違くはないのか?

そっちの人とは同性愛者のことだから咄嗟に違うと答えてしまったが、この場合オスを好むか?という質問になる。性的には私はメスで、オスを好むはずだから、是。と答えて良かったはず…。

だが未だ性には目覚めていない…。

そうか、分からないというのが正しかった。


「いや、分からないかな?」


シンディはニコリと笑うと、私の股の間に手を当てた。


「あら?」


まずい。

シンディは今度は胸に手を当てようとした。

すんでのところでその手を掴むが、それは女と認める行為に等しかった。


「まぁ、事情があるのね!」


シンディは一気に灰色の眼をキラキラさせた。嫌な予感がする。


「ハルくん?いえ、ハルちゃんね。」


すごい、ものすごい違和感だ。

鳥肌がたった。

それでもシンディは話を続ける。


「貴方と司書で面白い会話をしていたみたいじゃない。」


ニコリとまた笑う。

嫌な笑みだ。


「是非聞かせて欲しいの。」

「…、何故わざわざ聞くんだ?嫌だと言ったらバラすのだろう?」

「察しが良くて助かるわ。」

「何の為に?」

「それは後から話すわ。本当はこんな脅しみたいなことをしたくはないの…。」


私は次の言葉を待つ。


「お願い。私の夢のためなの。」


シンディは目に輝きを放っている。

どこかで捨ててしまったものが、目前にある感覚がした。

私には眩しすぎだ。

けれど、それだけで彼女を信用しようと思えたのだ。


「…、分かった。脅しに屈したから私は話すんじゃない。……シンディさん、貴方に頼みたいことがあるんだ。」

「え?」


私はシンディに司書から聞いた通路のことを話した。

シンディの顔色が変わっていく。


「あのアマ、隠してたのね。」

「へ?」


聞き間違いかと思ってシンディを見ると、表情は一気に変わりニコリと微笑んだ。

人間は底が知れないな…。


そして、私は魔術賢人の部屋に潜り込み探し物をしたい事、そしてその為にトーマスをできるだけ引き留めて欲しいことを話した。


「いいわよ。というより、是非私にやらせて欲しい。…あと、出来たら部屋に何があったか教えてね。」


私は頷いた。


「終わったら君の夢を教えて欲しい。」


シンディの目を見て言った。

シンディの頬が赤く染まる。


「ハルちゃんが女なんて勿体無いわ。」


どうなんだろう?


取り敢えず、今後の流れを話し合って、同じ史学の教室へと向かった。


教室へ入るや否や、マーリンに朝、何があったか聞かれた。

取り敢えず、図書館で調べ物があったと答えておいた。

マーリンはそれ以上聞き出そうとしなかったので安心した。


「そうだ、マルクス。」

「何ですか?」


マーリンの敬語はいつになっても慣れない。

少し声を潜める。


「申し訳ないが、今日の勉強会はなしだ。さっき言った調べ物で…。」


マーリンは少し考えたようだが、すぐ頷いてくれた。


「分かりました。調べ物、すぐ見つかるといいですね。」


私は頷いて席に戻った。


授業が始まっても、今日の潜入の為の魔法陣をずっと考えていた。


多分父さんが託した魔法陣は、ジンが鱗を満たした自らの目で、アニマを転移させたのと同じ原理だ。

あの魔法陣は多分、父さんとジン、そして私に受け継がれているこの黒い瞳を表している。

そして、その陣によって眼の元へ転移するのだろう。

片目となったジンを殺し、遺された眼を取り出して、今尚手元に置いているということだ…。

あまり考えない方が良さそうだ…。

足をずらしてしまうだろう。



アタラクシアの記憶を覗くと、その陣の簡略さには見覚えがあった。

魔法の理論が構築するずっと前の古来の陣だ。

古来の魔法陣は、強力性に最も特化したもので、魔力を莫大に消費する。私でも1日4回程度が限度だろう。

だから、眼がある所ならどんな所でも転移し行き来出来るのだ。

まぁ、あいつの影響下にある部屋に入れるかどうかは、これも賭けだが。



その魔法陣がどれだけ転移先に影響を与えるかはわからない。

音や風をたてるかもしれない。


魔法陣を使う前に存在を悟られないような魔法をかけよう 。


音、風、気配など悟られてしまう因子を全てなくす魔法陣だ。

あいつにも悟られないような魔法陣にしたかったが、流石に無理そうだった。最善は尽くすが、向こうが騒ぎ立てないことを願おう。



次に探し物を一気に見つけ出す為の魔法陣だ…。

これは異世界の人間の記憶の検索システムから着想を得た。

文書に限るが、エルフやジンに関するもの、あいつの使役方法などを探し当てるのに役にたつだろう。


最後にシンディに渡す魔法陣だ。

まず、連絡手段の為の魔法陣だ。

父さんの魔法陣と一緒なったのが悔しいが、振動を伝える魔法陣を使う。

次に、転移魔法陣だ。

司書さんは、食堂の地下道は講師棟から賢人会議が行われる中央講堂に続く通りに出ると聞いた。今後はその会議の盗聴を行うつもりだ。

その為の足がかりとして、この魔法陣を地下道辺りでシンディに張り付けてもらうつもりだ。


まぁ、こんなものだろう。


考え事をしていたら時間はあっという間に過ぎた。

昼の時間はシンディと打ち合わせをし、午後の授業となった。

午後の授業は案の定自習となっている。課題が出されているので、すぐ片付けていく。

シンディもすぐ片付いたようだ。

私達は目配せなどせず、そのまま教室を出て行った。


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