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魔術学園でのあれこれ  作者: あめ
第ニ章
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手紙

ハル視点です。

魔術賢人の部屋を探さなくては…。

学生用の図書館にスコーラの地図があるとは思えなかったが、動かずにはいられなかった。

図書館まで駆けてそれらしい本や資料をどんどん手に取っていく。

閲覧席で紙を捲り続けた。

しかし、それに当たる資料はなかった。

スコーラの大体の地形、そして学園施設は載っていたが、その他スコーラ国民の居住区、研究施設などは見当たらなかった。


トーマスを追跡するしかないか…。


懸念は残る。

スコーラの学園の教師は必ずしも他の者達と居住を共にしていない場合がある。

その場合、賢人との接点が来る日を願いながら追跡を続けなければならない。

回数を重ねるだけ見破られる可能性が増す。

しかも相手はスコーラの教師だ。

私がアタラクシアの記憶や魔力を持っているとしても、知らない魔術を使ってくるかもしれない。

以前の記憶改竄の魔法も、一度だけの突発的なものだったから見破られずに済んでいるのだろう。


今日はできるだけ見破られないで済む追跡の方法を考えよう。


メモ書きに使っている紙を鞄から引っ張り出し、誰からも気づかれないための魔法陣を思いつく限りどんどん描いていく。

どんどん描きだしていくが、やはり繰り返し行っても見破られないという自信にはならなかった。


しばらくすると、胸元にある何かが震えだした。


なんだ?


胸ポケットに手を入れて、震える物体を取り出すと、父さんからの手紙だった。

手紙を開くと震えは止まった。

紙に書かれてあったのは、振動を伝達させる魔法陣だった。そこから振動が発している。


「お前、開くの遅いぞ。」


気づく程の振動から音の振動まで伝達させるのか…。

父さんの言葉の前に魔法陣に感動していた。


「おーい。」


懐かしい声だ。


「用件はなんです?」

「まぁ、まずはここの盗聴防止の陣に触れろ。」


言われた通り、手紙の下の方に描いてある陣に触れ、鱗を流し込む。

発動したみたいた。


「よし、いいな。しかし、冷たいな。折角の愛するお父様からのお声だぞ。」

「用件はなんです?」

「お、随分強く出るようになったじゃないか。父さん、嬉しいぞ。」


言葉を聞くと顔が浮かんできた。


ジンが生きていたらこんな顔になっていただろう。


あの夢を見た後だからか、冷汗が一気に吹き出した。


「記憶が戻ったらしいじゃないか。」


そうだ。

私は父さんが怖かった。

私を恨むジンと重ねていたからだ。

だから奥底で手紙を忌避していたんだ。


「…ドリュアスからですか?」

「まぁ、色々とな。」

「物心ついた時から怪しいと思っていました…。」

「はは、褒めるな。」


だが、ジンはこんな物言いはしない。

父さんの顔がもう一度浮かびあがる。

いつも仏頂面だった。

アニマの前で見せる表情豊かなジンの顔とは全くの別物だ。


父さんとジンの違いを少しずつ見出すことで、何とか落ち着くことができた。



「…お前、今追っているものがあるだろう?」


父さんは何故こんなにも見透かすように話すのだろう?


「何故…」

「決まっているだろう?俺もお前と同じだからだ。」


そうだ。

父さんは双子の弟を殺されたんだ。

同じ、という言葉に力を感じた。


「俺も追っている。だが、理由が、あって動けない。…これは餞別だ。燃えるから頭に入れておけよ。」


手紙の二枚目には魔法陣が描かれていた。

そこには円の中にただの黒く塗りつぶされた丸が描かれているだけだった。


「これは…。」


全く魔法陣としての役割を担ってないような代物だが、何を表しているのかはすぐわかった。


「時機をのがすなよ。あ、あと開くのが遅かったお仕置きがあるからな。楽しみにしてろよ。」


手紙は不穏な言葉を残して、跡は残さず燃えて消えていった。

しばし呆然としていた。


「デュークさん?デュークさん?」


肩を叩かれてやっと名前を呼ばれていることに気がついた。


「は、はい!」


振り向くと、毎朝お馴染みの司書さんの顔があった。


「ちょっと授業までには早いんだけど、ここを片付けてもらっても構わないかしら?」


頭が空っぽだったので、言われた言葉を一言ずつ反芻してやっと理解できた。


「あ、はい。わかりました。」


授業前や閉館時間を理由に催促される事はあったが、それ以外を理由にされる事は初めてだった。


「ごめんなさいね。」

「何か、あるんですか?」

「いえね…。デュークさんなら引き抜き候補第1位だし、スコーラの精神を持っているんだから話してもいいわよね?」


独り言だが丸聞こえだ。


「実はこれから全生徒の成績をここで纏めるのよ。」

「…纏めてどうするんですか?」

「もちろん、賢人様にお渡しするのよ。」

「先程の引き抜き候補というのは?」

「今日、担当の先生と賢人が会議をして決めるのよ。成績と学問への渇望というスコーラの精神を有しているかが選別条件ね。」


トーマスが魔術賢人に会う…。

私が難しい顔をして、司書さんは何か勘違いをしたようだ。


「デュークさんは所属を無記名にしているでしょ?どの国の出身かは分からないけれど、それだけスコーラに残りたいのよね。」


頷いておく。


「本を愛する同士よ。裏技を教えてあげる。」


司書さんは口を耳に近づけた。


「スコーラに残りたい生徒だけに受け継がれる秘密の通路があるのよ。」


私の心臓の拍動が聞こえる。


「食堂の厨房の中に地下道へ続くドアがあるの。料理長に、‘私は暇人。’と言いなさい、ドアに案内してくれるから。ドアを通ると、講師棟から賢人会議が行われる中央講堂に通じる通路にでるわ。そこで担当の教師を待ち伏せするの。自分の思いを吐き出しなさい。」


口を固く閉ざしていたせいで、声が出なかった。ただ首を縦に振るしかない。


「健闘を祈るわ。」


司書さんはそのまま事務室へと戻っていった。

私は机の上にある本を抱え込み、一気に片していった。


父さんが託した魔法陣を使えるのは今日しかない。

ジンの残された眼を持つ者と、魔術賢人は同一人物かどうかは賭けだ。


心臓の早鐘が止まらない。



会議がどれほど時間がかかるか分からないのが痛い。


あいつが見せた部屋であれば、エルフの島にやってきた人物と魔術賢人は同一人物である可能性が一気に高まる。が、直接証拠にならない。


あの出来事の全貌が分かるような何かを探さなければ…。


見えない何かを掴もうとするのだ。時間があるならあった方がいい。


誰かにトーマスを留まらせてもらおうか…。そうすれば、会議は始まらない。

頼りたくないが、マーリンに事情を話してやってもらおうか…。

それしか方法が…


「ぐぇ。」


変な声が出た。

後ろからローブの襟を掴まれたのだ。そしてそのまま使われていない部屋に連れ込まれた。


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